「運のいい人」と言うと、「自分の運をどうすればよくできるか?」と自分に目が行きがちですが、運のいい人は他人といかに共生できるかに目が向くそうです。そこで本稿では、医学博士の中野信子氏による著書『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)から一部抜粋。いま、最注目の脳科学者がつきとめた運のいい人だけがやっている「思考」と「行動」を解説します。
よい人間関係を築くための〈配慮範囲〉とは? 他人のための〈利他行動〉をとると脳にポジティブな変化が起こるワケ【脳科学者・中野信子が解説】
運のいい人は利他行動をとる
どれだけ他人(ひと)のために生きられるか。自分の利益はひとまず脇に置いておいて、他人の利益になるような行動、いわゆる利他行動をどれだけとれるか。
これによってその人の運のよさは大きく左右される、といえそうです。
というのは、利他行動をとることで、人の脳にはよいことがたくさん起きるのです。
そのひとつは、脳の報酬系が刺激されること。
他人のために何かをすると、「えらいね」「なんてすばらしい人なんだ」などと、ほめられたり、よい評価を受けたりする場合があります。
人の脳は、ほめられたり、他者からよい評価を受けたりすると、現金を受け取ったときと同じような喜びを感じるのです。
これは、愛知県岡崎市にある自然科学研究機構生理学研究所の、定藤規弘教授らのチームの研究によって明らかになりました。
この研究チームは、平均21歳の男女19人を対象に、カードゲームで勝って賞金を得たときと、ほめ言葉を小型表示装置に映して見せたときの、それぞれの脳の血液の変化を特殊な磁気共鳴画像装置(MRI)で調べました。
すると、共に、線条体という快感を生み出すのにかかわる脳内の回路(報酬系)の一部が活発になったのです。つまり、脳はほめ言葉を「報酬」として受け取るのです。
報酬系が刺激されるとナチュラルキラー細胞が活発になり、体にもよい影響を与えることが数々の実験や研究で明らかになっています。
ところで、利他行動は常にだれかからほめられたり、よい評価を受けたりするとは限りませんね。人知れず行動する場合も少なくありません。
自分以外のだれかのための行動は、たとえだれにも見られていなくても、自分自身は見ています。
人の脳には、前頭前野内側部という自分の行動を評価する部位があります。この部位が、「よくやった!」「すばらしい!」などと自分の行動を評価すると、たとえ他人からほめられなくても、大きな快感を得られるのです。