「運のいい人」と言うと、「自分の運をどうすればよくできるか?」と自分に目が行きがちですが、運のいい人は他人といかに共生できるかに目が向くそうです。そこで本稿では、医学博士の中野信子氏による著書『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)から一部抜粋。いま、最注目の脳科学者がつきとめた運のいい人だけがやっている「思考」と「行動」を解説します。
よい人間関係を築くための〈配慮範囲〉とは? 他人のための〈利他行動〉をとると脳にポジティブな変化が起こるワケ【脳科学者・中野信子が解説】
相手が喜んでくれると脳は何重もの喜びを感じる
また、利他行動で相手が喜んでくれた場合を考えてみましょう。
ボランティア経験のある人に、「ボランティアをやっていちばんよかったと思うときはいつですか?」と質問すると、「相手が喜んでくれたとき」「ありがとう、と言われたとき」という答えが多く返ってきます。
これは先ほど述べた脳内のミラーニューロンの働きによって、相手の喜びを自分の喜びのように感じているから、といえます。
つまり、利他行動をとり、それによって自分がよい評価を受け、さらに相手が喜んでくれたときには、脳は何重もの喜びを一気に感じているのです。
ところで、京都大学の藤井聡教授は、「他人に配慮できる人は運がよい」ということを著作の中で述べられています。
藤井教授は、人が心の奥底で何に焦点を当てているかで人を分類する、という心理学上の研究を行いました。
その結果、「配慮範囲が広い人ほど運がいい」という結論を導き出したのです。
ここでいう配慮範囲とは、現在の自分を原点にして人間関係と時間を軸にしたもの。
人間関係においては、社会的・心理的距離の近い人と遠い人がいます。たとえば家族や恋人はこの距離がもっとも近い人といえます。続いて、友人→ 会社の同僚や学校のクラスメイト→知り合い→他人というように、その距離はだんだん遠のいていきます。
配慮範囲の時間とは、思いを馳(は)せる未来の時間のこと。人は今日のことだけでなく、2、3日先、来年など自分の将来に思いを馳せます。また、自分の親や子どもの将来についても考える。さらに社会全体の将来について真剣に考える人もいます。
この人間関係と時間に関して人はどれだけ広く配慮できるか、その範囲によってその人の運が決まってくるのではないか、ということに藤井教授は注目したのです。
自分のことばかり考え、目先の損得にしか関心がない人は、配慮範囲の狭い人です。一方、自分のことばかりでなく、家族や友人、そして他人や社会全体の将来についてまで考えられる人は、配慮範囲が広い人です。
研究の結果、配慮範囲の狭い人はある程度までは効率よく成果を上げられるものの、目先のことにとらわれて協力的な人間関係を築けないため、総合的にみてみると幸福感の得られない損失が多い人生になる、というのです。
逆に、配慮範囲の広い利他的な志向をもつ人は、よい人間関係を持続的に築けるため、自分の周囲に盤石なネットワークをつくることができ、それが運のよさにつながるといいます。
自分のことばかりでなく、家族や友人を思いやること。
家族や友人だけでなく、会社の同僚、部下、上司を思いやること。
会社の同僚などだけでなく、近所の人や、よく行くスーパーやコンビニエンスストアの店員さんにも思いを馳せること。
近所の人だけでなく、顔や名前を知らない自分と同じ町に住む人を思うこと。
自分の町や国だけでなく、世界に住む人のことを思うこと。同時に彼らの将来にまで心を配ること。
運をよくするためには、このことが大事なようです。
中野信子
東日本国際大学
特任教授/医学博士