近年は定年後も働く人が増えていますが、「働く理由」は現役時代とは違ったものに変化しているようです。どのような変化が起きているのでしょうか。そこで本稿では、MP人間科学研究所で代表を務める心理学博士の榎本博明氏による著書『60歳からめきめき元気になる人「退職不安」を吹き飛ばす秘訣』(朝日新聞出版)から一部抜粋して、老後も働くことと「健康寿命」の意外な関係性について解説します。
人間はどんなときに「自分が必要とされている」と実感するのか
では、どのようなときに「自分は役に立っている」「自分は必要とされている」と感じることができるのだろうか。
心理学では、それは「自己有用感」(自分も人の役に立つことができるという感覚)ということで研究されているが、心理学者の伊藤裕子たちにより、60~70代の人たち向けの自己有用感を測定する心理尺度が作成されている(伊藤裕子・山崎幸子・相良順子「自己有用感尺度の作成と信頼性・妥当性の検討」文京学院大学人間学部研究紀要Vol.22)。それには、つぎのような項目が含まれている。
「私は周囲から感謝されていると思う」
「自分の存在が周囲から認められていると感じる」
「自分が必要とされていると感じる」
「私は周囲から関心をもたれている」
「私がいることで周囲の人々の心の支えになっている」
「私は社会に役立つ人間だと思う」
「自分には役割がある」
このような自己有用感は、人間ではなくペットでも充足されるようであり、以下のような項目も含まれている。
「自分がいないと周囲の人(ペット)は困ると思う」
「私がいないと周囲の人(ペット)は淋しがると思う」
犬の散歩を習慣としている高齢者をよく見かけると思うが、ペットのためを思って取る行動も、自己有用感を満たすために大切な要素となっているのである。
榎本 博明
MP人間科学研究所
代表/心理学博士