相続してもらいたい大切な家族を思い、作成する「遺言書」。準備するにあたり、誰に相続させるかだけではなく、書き方や保管場所にいたるまで、さまざまなことを決めなければなりません。これまで数多くの相続問題に関わってきた税理士の北井雄大氏の著書『相続はディナーのように “相続ソムリエ”がゼロからやさしく教えてくれる優雅な生前対策の始め方』(日刊現代)より、詳しく見ていきましょう。
1.「自筆証書遺言」の作り方
相続ソムリエ:まずは自筆証書遺言の作り方です。自筆証書遺言の形式要件には、次のようなものがあります。
・全文直筆で書く
・消せない筆記具(ボールペンなど)で書く
・末尾に作成年月日を書き署名捺印する
・相続人を特定できるように書く
・相続財産を特定できるように書く
・相続人それぞれの相続分をわかりやすく書く
・遺言執行者の名前を書く
・封筒に入れて封をし、押印する
綾子:だいたい納得の内容ですが、作成した年月日を書くのはなぜですか?
相続ソムリエ:自筆証書遺言は、いつでも新しく書き直せるからです。内容をアップデートした際、古い遺言書を破棄しないと、どれが最新で有効なものなのかわからなくなってしまいますよね。そこで、有効な遺言書を判断できるよう、作成した日付を書いておくんですよ。
さらに、作成年月日は、遺言書を書いたときに被相続人に責任能力があったかどうかを判断する際にも使われます。
潤一郎:遺言書を書いたときに、被相続人が重度の認知症になっていたら、遺言書の内容に疑いが生まれるからか。その場合は、遺言書は無効になるんだろう?
相続ソムリエ:遺言書が認められないこともあります。
小百合:「遺言執行者の名前を書く」とありましたが、遺言執行者って誰のことですか?
相続ソムリエ:相続に関わる事柄などがすべて遺言書の通りに執行されるように管理する責任者のことです。親族でもかまいませんが、最近は税理士をはじめとして、弁護士や司法書士などの士業を指名される方も多くいらっしゃる印象ですね。親族が遺言執行者になると他の相続人と利害関係が生まれることもありますし、遺言通り相続したい場合は専門家に任せることをおすすめします。
春樹:ソムリエさんにお任せできれば安心だね。
潤一郎:自筆証書遺言を書いたら、どこに保管するのだろうか?
相続ソムリエ:わかりやすい場所に保管するのが第一です。紛失してしまったり、被相続人が亡くなった後、残された遺族が見つけられなかったりしたら、遺言書を作った意味がないですからね。
綾子:「遺言書は仏壇の引き出しに入れておくからね」などと、生前に公言しても問題ないんでしょうか。
相続ソムリエ:もちろんです。むしろ、身近で信頼できる親族には、遺言書の内容と保管場所を伝えておくことをおすすめします。
桜:被相続人が亡くなった後は、遺言書を見つけた人が開封していいの?
相続ソムリエ:いいえ。自筆証書遺言の場合は、執行する前に家庭裁判所の「検認」を受ける必要があるんですよ。
小百合:検認? 初めて聞く言葉ね。
相続ソムリエ:検認とは、遺言書が法的に有効かどうかを家庭裁判所がチェックすることをいいます。内容に漏れやおかしなところはないか、本当に本人が書いたものかどうかなどを家庭裁判所が調べます。その結果「OK」と認められてはじめて、自筆証書遺言は有効になります。
綾子:なんだか難しいのね。せっかく書いたのに無効になるかもしれないなんて……。
潤一郎:ソムリエさんに見てもらいながら書かないと、うっかりミスをしそうだ。
相続ソムリエ:いつでもご相談ください。「難しそう」「紛失してしまいそう」と心配な方の中には「公正証書遺言」を利用する方もいらっしゃいますよ。