残り時間が気になってくる

若い頃は、もちろん自分の人生の残り時間を気にするようなことはなかった。今の時間の流れが永遠に続くような感覚で毎日を過ごしていた。実際、平均寿命からみても、持ち時間の大半がまだ残っているわけだから、べつに気にする必要などなかった。

ちょうど働き盛りの頃から中年期にかけて、平均寿命の中間点を通過しているはずだが、目の前のすべきことに追われ、持ち時間があとどのくらいあるのかとか、先のことについて考える余裕がなかった。というよりも、平均寿命の中間地点であってもまだ40年くらいあるのだから、とくに考える必要もなかったのだろう。

ところが、50代にもなると、退職まであと何年などと数えるようになり、職業生活の残り時間、さらには人生の残り時間が気になるようになる。

そして60代になり、定年退職したり、再雇用で以前とは違う契約条件で働いたりするようになると、平均寿命の4分の3以上を過ぎているため、あと残り時間は10数年しかないかもしれないと考えるようになり、これからの人生を後悔のないように生きていかなければといった思いが強まる。

人生の残り時間への意識に関して、多くの人がたどる流れは、だいたいこのような感じなのではないか。

残り時間を意識するようになると、悔いのない人生にすべく、自由に動き回れるうちにやりたいことを思う存分やっておきたいと思うようになる。

在職中は、たとえ仕事のやりがいを感じていたにしても、職業上のさまざまな縛りがあり、自分の思うように動けないことも多々あったはずである。それが、退職によって何の縛りもない生活を送れるようになったわけである。

せっかく職業的役割から解放されたのだから、これからは自分の好きなように生きたいと思うのも当然であろう。

ただし、これからは今が永遠に続くような感覚で生きていくわけにはいかない。残り時間を考えながら優先順位を検討し、まずはどのように過ごすかを決めていかねばならない。いくら長寿化しているといっても、やりたいことをして暮らせるのは、自由に動き回れる間に限られる。そこで気になるのが健康寿命だ。