健康寿命という言葉が気になる

平均寿命に対して、健康寿命というものがある。健康寿命とは、厚労省の資料によれば、「日常生活に制限のない期間の平均」のことである。言い換えれば、自由に動き回れる生活が何歳まで可能であるかということである。

たとえば、日本人の2019年の健康寿命は、内閣府の資料によれば、男性72.7歳、女性75.4歳となっている。

これに対して、同じ2019年の日本人の平均寿命は、厚労省の資料によれば、男性81.4歳、女性87.5歳となっている。

そうすると、平均的な男性の場合は、81歳くらいまで生きる可能性があるものの、自由に動き回れるのは73歳くらいまでであり、その後の8年間は不自由な生活を強いられる。平均的な女性の場合は、88歳くらいまで生きる可能性があるものの、自由に動き回れるのは75歳くらいまでであり、その後の13年間は不自由な生活を強いられるということになる。

このところ健康寿命という言葉が世間に広まってきたためか、これまでは平均寿命を念頭に置いて、まだかなり残り時間があると思い楽観していたけれど、健康寿命が尽きないうちにやりたいことをやっておきたいと思い、少し焦ってきたという人もいる。

以前は毎日ただ何となく暮らしてきたけれど、健康寿命というものを知ってからは、自由に動けるうちに気になることをしておかなければと思い、気が引き締まって、だらだらすることがなくなったという人もいる。

とくに持病があったり、身体の不調を感じることが多かったりすると、健康寿命は非常に気になるはずである。今は健康上の問題はとくにないという人でも、健康寿命ということを考えると、いつまで健康でいられるのか不安になるだろう。

でも、このように不安になるのも、けっして悪いことではない。先ほどの事例のように、何となく惰性で暮らしていた人も、健康寿命を意識することで気持ちが引き締まり、悔いのないように自分が納得できる生活に向けて踏み出すことができるかもしれない。

私たちは惰性に流されがちであり、今の生活を変えるには、かなりの覚悟がいる。すでに楽しく充実した生活になっているという場合はそのままでいいわけだが、なんか退屈だなあ、こんな生活がずっと続いてもつまらないなあと感じている人は、もっと楽しい生活に向けて一歩踏み出す必要がある。

でも、つい面倒くさくなり、惰性で過ごしてしまいがちだ。そんな人にとっては、健康寿命を意識するのは、覚悟して一歩を踏み出すきっかけになるだろう。

榎本 博明

MP人間科学研究所

代表/心理学博士