医療進歩が目覚ましい昨今ですが、いまだ日本人の死因第1位は悪性新生物(癌)です。癌に限らず、人間はいつ死ぬかわかりません。わかっていてもなかなか準備には踏み切れないものですが、自分の死後、財産が自分の望む人のもとへ確実にわたるよう、早めの準備が非常に重要です。本記事では古木さん(仮名)の事例とともに離婚と相続の問題について、行政書士の露木幸彦氏が解説します。
年収900万円・財産1億超の58歳会社員、“癌”に罹患…皮膚が剥がれ落ち、吐き気が止まらなくても、治療より先に15歳の愛娘のため「やりとげたかったこと」【行政書士が解説】
命がけの離婚も水の泡となった理由
ところで親権者である圭太さんが途中で亡くなってしまったら、未成年の娘さんはどうなるのでしょうか?
圭太さんの代わりに娘さんを引き取る人のことを後見人といい、家庭裁判所が選任します。残念ながら、圭太さんの両親はすでに亡くなっており、兄弟姉妹はいません。そのため、妻以外に適任者はいません。裁判所は妻の育児放棄、浪費癖、不倫癖のことを知らないので、妻を後見人として選定したのです。
今後、妻が娘さんの食事を用意し、衣服を洗濯し、部屋を掃除するかどうかはわかりませんが、それだけではありません。後見人は未成年者の財産を管理する権利を持っています。
妻は離婚時、すでに3,800万円の財産を受け取っています。圭太さんの財産を相続する権利を持っているのは娘さんだけです。圭太さんの財産はすべて娘さんが相続したのでしょう。妻はこれらの相続財産(8,200万円)を管理することができるのです。無理やり離婚させられた妻が財産をどのように使うのかはいうまでもありません。
圭太さんは生前、命がけで妻を娘さんから引き離し、娘さんに財産を残そうと奮闘したのですが、結局、これらの頑張りは無意味に終わりました。では、圭太さんはどうすればよかったのでしょうか?
具体的には遺言を作成し、そのなかで後見人を指定することです。一般的に遺言を作成する目的は「遺産の配分」だと思われがちですが、それだけではありません。未成年の子どもがいる場合、万が一のときは誰に子どもを任せたいのかを残すことも可能です。圭太さんの場合、相続人は娘さん一人です。遺言がなくても全財産を娘様に相続させることが可能なので後見人については盲点でした。
誰しも病気や怪我にかかる可能性はありますが、それは子どもの親も例外ではありません。いつどこでなにがあるかわからないので万が一の場合、非親権者(親権を持っていない親)に子どもを任せたくないのなら、どの親も遺言で後見人を指定することをおすすめします。
露木 幸彦
露木行政書士事務所