医療進歩が目覚ましい昨今ですが、いまだ日本人の死因第1位は悪性新生物(癌)です。癌に限らず、人間はいつ死ぬかわかりません。わかっていてもなかなか準備には踏み切れないものですが、自分の死後、財産が自分の望む人のもとへ確実にわたるよう、早めの準備が非常に重要です。本記事では古木さん(仮名)の事例とともに離婚と相続の問題について、行政書士の露木幸彦氏が解説します。
年収900万円・財産1億超の58歳会社員、“癌”に罹患…皮膚が剥がれ落ち、吐き気が止まらなくても、治療より先に15歳の愛娘のため「やりとげたかったこと」【行政書士が解説】
癌と並行して離婚調停へ
実際のところ、担任の教諭から圭太さんのところへ電話があり、「登校しなかったり、無断で下校したりすることが増えているけれど、おうちでなにかありましたか?」と尋ねられたそうです。
文部科学省の調べ(2022年)によると中学校の不登校の生徒数は19万人。全生徒の6%が不登校なのですが、それもそのはず。不登校の生徒数は前年(16万人)に比べ、18%も増えているのです。
圭太さんが娘について、妻へ問いただすと「ちゃんとやっているよ。反抗期でちょっとナイーブでしょ」と一笑に付したので、圭太さんも堪忍袋の緒が切れたのです。「あいつ(妻)と引き離すのは離婚するしかない!」と。圭太さんが筆者の事務所へ相談しに来たのは重大な決断をしたタイミングでした。
離婚する際、夫婦のあいだに未成年の子どもがいる場合、どちらが子どもの親権を持つのかを決めなければなりません。圭太さんの望みは娘の親権のみ。圭太さんは家庭裁判所に離婚調停を申し立て、妻の説得を続けましたが、そのあいだにも圭太さんは血液検査を受けるたびに腫瘍マーカーの値が上昇し、恐怖に苛まれていたようです。
――しかし、10ヵ月後。最終的には「3,800万円を渡す」という条件で離婚に同意させ、親権を放棄させることができました。
父親が親権を獲得するケースは全体の約1割
厚生労働省(2021年)調べによると子ども1人の場合(4万8,979組)、父親が親権を獲得したのはわずかに13%(6,298組)、母親(87%、4万2,681組)のほうが圧倒的に有利です。それでも妻が親権をあきらめたのは娘に対して愛情が薄かったこと、そして目先の遊ぶ金が欲しかったのでしょう。
財産分与の残酷
法律上(民法758条)結婚しているあいだに築いた財産は夫名義であっても夫の財産ではなく、夫婦の共有です。そして離婚する際は夫と妻で財産をわけ合わなければなりません。(民法768条)。3,800万円の内訳は預貯金(450万円)、自宅マンション(2,700万円)、投資信託(415万円)、外貨預金(250万円)です。つまり、退職金以外、すぐに現金化できる財産をすべて渡した格好です。逆にいえば、圭太さんの手元には現金化できる財産はなにも残りません。
親権を獲得するためとはいえ、ずいぶん不利な条件のように感じるでしょうか。