「修繕積立金」金額の設定根拠は?

経年とともに給排水管、エレベーター、機械式駐車場などの大がかりな工事が増加する一方、2回目・3回目の大規模修繕に向けた適切な長期修繕計画の見直しが行われていない事例も多い。

大規模修繕は多額の費用がかかるため、多くのマンションでは向こう20〜30年の長期的な修繕計画や資金計画を立てる。いつ、どの部分を修繕や改修をするのか、そのためには、どのくらいの費用がかかるのか。その費用を各区分所有者がどのように負担しあうのか、この計画を「長期修繕計画」という。毎月の修繕積立金の設定根拠は長期修繕計画なのだ。

なお、2021年9月改訂の長期修繕計画作成ガイドラインでは、「大規模修繕工事2回を含む30年以上」とされる。この計画に基づきコツコツと「修繕積立金」を積み立てて、適切な時期に適切な修繕や改修を行うことが望ましいといえる。

ただし、長期修繕計画はあくまで、長期的な工事内容と実施時期、必要な工事費用の目安を見積もるもので、必ず計画通りに修繕を行わなければならないというわけではない。実際に修繕や改修を行う場合は、劣化診断を実施し、具体的な修繕実施計画を作成し実施する。

ここで問題なのは、築古のマンションでは、そもそも長期修繕計画がない、あっても見直しされていないことがあることだ。マンション総合調査によると、計画の見直しを行っていないマンションの割合は5.7%、見直しをしていても「修繕工事実施直前に見直しを行っている」が12.5%、「修繕工事実施直後に見直しを行っている」が10.1%と、22.6%ものマンションが10年以上見直されていない。これでは資金の余剰がない限り、最近10年の高騰に堪えられないのではないか。

実際、同調査によると、積立額が計画に比べて不足しているマンションは34.8%もある。このうち、不足する割合が20%を超えるマンションは15.5%にもなっている。もし長期修繕計画がないにもかかわらず、修繕積立金が徴収されている場合は、設定されている(毎月支払っている)金額に根拠がない可能性が高い。そうすると、資金難により必要な時期に、必要な大規模修繕ができない可能性が高い。

そのため、行き当たりばったりで修繕をしたり、修繕積立金の大幅な値上げや一時金の徴収、それでも補填できなければ、管理組合で借り入れたりといった事態になる。果ては資産価値の下落どころか、マンション崩壊やスラム化すら招きかねないだろう。

日下部 理絵
マンショントレンド評論家
オフィス・日下部 代表