税務署は「銀行口座の動き」を職権で調べることができる

綾子:調査は、どのように進んでいくんでしょうか?

相続ソムリエ:税務調査の期間は一般的に1~2日間です。

当日は朝10時から調査が始まります。最初の1時間程度は、被相続人がどんな人だったかのヒアリングが行われます。その後は、通帳の記録や申告書を見ながら、「これはどういう意味ですか」といった質問がなされます。

午後3時半頃になると、「今のところ調査結果はこうなっています」と伝えられます。そして「現状の問題点はここです」などと指摘があり、30分程度かけて、指摘を受けた問題点について話し合います。そこで解決すれば、1日で調査を終えることもできますし、問題が残れば確認に時間を要することもあります。

小百合:すごいわねえ。短くても丸1日かかるのね。

潤一郎:税務調査が入るような事態にならないよう、ソムリエさんのご協力を仰ぎながら準備をするとして……単なる好奇心からお聞きするのですが、国税庁はどうやってお金の動きを把握しているんでしょうか?

相続ソムリエ:国税庁には国税総合管理(KSK)と呼ばれるシステムがあります。KSKは、全国の国税局と税務署をネットワークで結び、申告・納税のデータや各種情報を入力することで、国税関連の情報を一元的に管理するものです。

小百合:ハイテクねえ。

相続ソムリエ:被相続人をAさんとすると、国税庁はKSKによって、Aさんがそれまでどんな確定申告をしてきたか、専従者給与(身内への給与)として妻のBさんにどれだけの給与を支払ってきたか、その結果、Aさん、Bさんにはどれくらいの資産が積み上がっているかを把握しています。

綾子:すべて知られているのね。後ろ暗いことはないけど、ドキドキするわ。

春樹:Aさんが亡くなったとき、国税庁はどんなふうに動くんですか?

相続ソムリエ:まずは「おそらく3億円ほどの現金を持っているはず」「現金がなければ不動産に変わっているはず」などと推定します。

ところが、相続税の申告があったタイミングで財産の内容を見ると、1億円しか申告されていなかったとしましょう。すると「2億円はどこへいったのか」となり、子どもに贈与したのか、配偶者に渡したのか……などと想像します。それを確認するため、税務署は相続人である配偶者や子どもの預金口座を調べます。

桜:すごい、探偵みたい! なんでもわかるんですね。

相続ソムリエ:税務署は、銀行口座の動きを職権で調べることができます。銀行に記録された過去10年間の預金の出し入れを調べ、2億円の行方がわからなければ、「どこかに隠し持っているのだろう」と推定するでしょう。「自宅の金庫にあるのでは?」と考えるかもしれませんね。

このように、税務署が「怪しい」と思った申告が税務調査の対象となります

潤一郎:素晴らしい仕事ぶりだ。悪いことはできないな。

小百合:そういう案件だと、やはり相続人が悪意を持って財産を隠すことが多いんでしょうか?

相続ソムリエ:もちろん擁護はできませんが、悪意というより、子や孫に少しでも多く資産を残してあげたい一心で……ということが多いですね。あるいは、認知症の親の代わりに通帳やカードを預かっていた子どもが、無断で自分の口座に預金を移していたというケースもあります。

桜:なるほど。それは預金口座を調べるとすぐにわかりますよね。