1つ1つの建物に刻まれた建築の歴史たち

初期鉄筋コンクリート建築事例?

東洞院通りに面して複数のテナントが入るビルがある。詳細不詳で何棟に分かれるのかさえわからないが、京都市の資料どおり大正時代だとすれば初期の鉄筋コンクリート建物の事例となる。鉄筋コンクリートだったらの話だが。南側にテラスをめぐらせるなど魅力的なプランをしている。おもしろいのは角の辻医院部分だけデザインが違うことだ。

出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋
【写真6】辻医院
大正後期? 設計者不詳
京都市中京区東洞院通錦小路下ル東入ル阪東屋町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

アメリカンゴシックの小さな教会

富小路通りの救世軍京都小隊は、アメリカンゴシック様式だ。先の尖ったポインテッドアーチはゴシック様式の特徴で、中世ゴシック様式のモチーフを簡略化して使ったアメリカ版ゴシックリバイバルだ。近年改修されて少し変わったが、丁寧な仕事ぶりで建物が大切にされていることが伝わってくる。わたしは歴史的価値が損なわれなければ、少しぐらい変わっても良いと思っている。それよりも定期的に改修することのほうが建物にとって大事だ。

出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋
【写真7】救世軍京都小隊
1936年 W.M.ヴォーリズ
京都市下京区四条通富小路下ル徳正寺町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

京都の小学校の歴史を伝える

麩屋町通りの京都市学校歴史博物館は、小学校統廃合にあたって各小学校所有の美術工芸品などを収蔵展示している。京都の古い小学校は、国の学制ができる以前に町衆たちが自前で設けたもので、教材として寄贈された美術工芸品は多岐にわたった。現在の入り口は敷地の東側だけど、見るのは元の正面である西側が良い。校庭側には木造の旧京都市立成徳小学校の玄関が移築保存されている。

出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋
【写真8】京都市学校歴史博物館
(旧京都市立開智小学校)
1935年 京都市営繕課
京都市下京区麩屋町通仏光寺下ル鍋屋町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

60年代モダニズム建築

高辻通りを西へ、烏丸通りの交差点にある京都銀行本店は、両端に立ち上がったブックエンドのような壁と壁の間を、開放感のあるバルコニーでつなぐことで、軽やかなイメージを作り上げている。1階上部の湾曲した庇は1960年代モダニズムの特徴のひとつ。両端の壁は、モルタルが乾く前に水洗いすることで、中の豆砂利を見せる洗い出し仕上げだ。粗い表面には小さな陰影がたくさん宿り、深みのある壁面に仕上がるわけだ。一方、バルコニー側はステンレスですっきり納め、古びてもまた良し。

出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋
【写真9】京都銀行 本店
1966年 設計者不詳
京都市下京区烏丸通松原上ル薬師前町700
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

連続アーチが美しい

さらに高辻通りを西へ進むと旧京都市立成徳小学校だ。砂岩で縁取られたロマネスク修道院風の連続アーチの美しさに見とれてしまう。東端のアーチが玄関で、アーチの縁飾りとその上両端のブロンズ製のレリーフが優しい。門柱に残されているブロンズ製の表札や、門柱上の復元照明も必見だ。さらに、西端のアーチにはアールデコ風な幾何学模様の門扉が残っている。

出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋
【写真10】京都市立下京中学校成徳学舎
(旧京都市立成徳小学校)
1931年 京都市営繕課
京都市下京区室町通高辻西入ル繁昌町290
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

職住一体の現役理髪店

油小路通りと綾小路通り角の宮川美髪館は、洋館建ての理髪店である。この時代の洋館建て理髪店も少なくなった。親しみやすい外観で、よく手入れされている。大小の窓が不規則に並びながら、不揃いには見えない。窓と壁とのプロポーションがよいからであろう。ベージュ色のタイルは新風館のものとよく似ている。まちによく馴染むタイルである。

出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋
【写真11】宮川美髪館
1927年 設計者不詳
京都市下京区石井筒町556
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

円満字 洋介


建築家