室町時代以来の京都の中心街・四条通り。商業施設が立ち並ぶ四条通りに対し、鳥丸通りは金融系の建物が目白押しで、2つの通りにはさまざまなな建築様式の建物があります。京都の歴史ある美しい街並みについて、著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より、円満字洋介氏が解説します。
1つ1つの建物に刻まれた建築の歴史たち
初期鉄筋コンクリート建築事例?
東洞院通りに面して複数のテナントが入るビルがある。詳細不詳で何棟に分かれるのかさえわからないが、京都市の資料どおり大正時代だとすれば初期の鉄筋コンクリート建物の事例となる。鉄筋コンクリートだったらの話だが。南側にテラスをめぐらせるなど魅力的なプランをしている。おもしろいのは角の辻医院部分だけデザインが違うことだ。
アメリカンゴシックの小さな教会
富小路通りの救世軍京都小隊は、アメリカンゴシック様式だ。先の尖ったポインテッドアーチはゴシック様式の特徴で、中世ゴシック様式のモチーフを簡略化して使ったアメリカ版ゴシックリバイバルだ。近年改修されて少し変わったが、丁寧な仕事ぶりで建物が大切にされていることが伝わってくる。わたしは歴史的価値が損なわれなければ、少しぐらい変わっても良いと思っている。それよりも定期的に改修することのほうが建物にとって大事だ。
京都の小学校の歴史を伝える
麩屋町通りの京都市学校歴史博物館は、小学校統廃合にあたって各小学校所有の美術工芸品などを収蔵展示している。京都の古い小学校は、国の学制ができる以前に町衆たちが自前で設けたもので、教材として寄贈された美術工芸品は多岐にわたった。現在の入り口は敷地の東側だけど、見るのは元の正面である西側が良い。校庭側には木造の旧京都市立成徳小学校の玄関が移築保存されている。
60年代モダニズム建築
高辻通りを西へ、烏丸通りの交差点にある京都銀行本店は、両端に立ち上がったブックエンドのような壁と壁の間を、開放感のあるバルコニーでつなぐことで、軽やかなイメージを作り上げている。1階上部の湾曲した庇は1960年代モダニズムの特徴のひとつ。両端の壁は、モルタルが乾く前に水洗いすることで、中の豆砂利を見せる洗い出し仕上げだ。粗い表面には小さな陰影がたくさん宿り、深みのある壁面に仕上がるわけだ。一方、バルコニー側はステンレスですっきり納め、古びてもまた良し。
連続アーチが美しい
さらに高辻通りを西へ進むと旧京都市立成徳小学校だ。砂岩で縁取られたロマネスク修道院風の連続アーチの美しさに見とれてしまう。東端のアーチが玄関で、アーチの縁飾りとその上両端のブロンズ製のレリーフが優しい。門柱に残されているブロンズ製の表札や、門柱上の復元照明も必見だ。さらに、西端のアーチにはアールデコ風な幾何学模様の門扉が残っている。
職住一体の現役理髪店
油小路通りと綾小路通り角の宮川美髪館は、洋館建ての理髪店である。この時代の洋館建て理髪店も少なくなった。親しみやすい外観で、よく手入れされている。大小の窓が不規則に並びながら、不揃いには見えない。窓と壁とのプロポーションがよいからであろう。ベージュ色のタイルは新風館のものとよく似ている。まちによく馴染むタイルである。
円満字 洋介
建築家