「神事」と「日本酒」の深い関わり

古から日本酒の原材料である米は、農耕と深い結びつきがあります。よって「酒の神」は「農業の神」であり、「収穫の神」ともされてきました。日本には、今でも「神・酒・人」が一体となった数多くの神事が伝承されています。

神に捧げる御神酒。その酒質は腐っても汚れてもいけない「味酒」である必要があったのです。そのため農作物の豊穣を祈るかのごとく、酒の出来上がりの成果を期待したり、酒が腐らないことを願ったりしながら酒造りがされていました。さらに、神前の御神酒を欠かさずに丹念に酒造りをすることも、神事の大切な一部であるということです。

このような背景から、日本各地に酒造りの神を祭る神社ができ、酒と神の結びつきはより深くなっていきました。弥生時代の後期には神事と共に「神の酒」が記述されるようになり、ヤマタノオロチを退治するときに使われたという「八塩乃酒」(古事記)や、木花咲耶姫が神事に使ったとされる「天甜酒」(日本書紀)などが登場しました。

時代は進み、701年の大宝律令により「新嘗祭」(現在は毎年11月23日)が制度化されました(諸説あり)。新嘗祭とは、宮中祭祀で最も重要な祭礼として行われる、五穀豊穣を祝う収穫祭のことです。

島根県の出雲大社の新嘗祭では、御神酒は今でも古来の方式にのっとって醸されています。製法は、容器に入れた麹と同量の粥状の新米を混ぜ合わせて、2日間仕込みます。この御神酒は「醴酒」と呼ばれ、アルコールもほとんどない甘酒のようなものだそうです。

さて、蔵の神事といえば、どんなことが執り行われているのでしょうか。創業1688(元禄元)年の老舗蔵、「一白水成」を醸す福禄寿酒造(秋田県)の蔵元、渡邉康衛さんに、1年間の神事を教えていただきました。

「私は毎朝必ず、酒造りの神様を祭る『松尾大社』の蔵内の神棚、事務所の神棚とともに仏様に手を合わせています。毎月1日と15日は、神棚の榊、米、水、塩、酒の交換をします。『松尾様の日』である毎月13日は、社員一同が集まり合掌。毎年12月13日には蔵に神主を呼び、醸造祈願のための『松尾祭』を行っています」

また、このような日々の神事について「いつの頃からか、すべて【感謝】だと感じるようになりました。日本酒は自然から与えられるもので造られ、その原料がなければ酒造りができません。いつも酒造りできることへの感謝を胸に、神棚に手を合わせております」(渡邉さん)と、真摯に語ってくださいました。

出所:『人生を豊かにしたい人のための日本酒』(マイナビ出版)より抜粋
【写真】毎朝、蔵内の神棚に手を合わせる渡邉さん写真提供:福禄寿酒造

自然への敬愛、尊い祈りが詰まった神事が執り行われるからこその日本酒。日本人として日本酒をいただけるありがたみを感じずにはいられません。

近藤 淳子
一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション
副理事長、フリーアナウンサー

葉石 かおり
一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション
理事長 酒ジャーナリスト、エッセイスト