年齢を重ねるにつれて、食卓に並ぶ料理が質素になってきている家庭も多いのではないでしょうか。「もう若くないんだから、昔のように肉を食べたいとは思わなくなった」と感じる人も多いようです。しかし、こうした食生活の変化が、実は健康な老後を遠ざけています。本稿では医師の和田秀樹氏の著書である『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』(マガジンハウス)より一部を抜粋し、日本の高齢者が抱える「栄養問題」について解説します。
「もう若くない」と思ったら「ステーキ」を食え!“70代で弱り始める人”と“まだまだ元気で生きる人”の決定的な違いとは?【医師が解説】
元気の源「セロトニン」は、バラエティに富んだメニューから
そもそも、身体の老化が始まるとエネルギー効率も悪くなります。食べたものが栄養として身体に取り込まれる比率が下がってくるのです。
幼児や子どものころは身体に入ってくるものがどんどん栄養として取り込まれていきますから、ぐんぐん成長します。ところが高齢になると細胞も老化してきますから、代謝が悪くなってしまうのは仕方ありません。
そこで気がついていただききたいのは、「だからこそ、食べ物でエネルギーを補充しなければいけない」ということです。成長期の子どもは食べなければ育ちませんが、高齢者は食べなければ萎んでしまうのです。
まして70代を活動的に、好きなことを思う存分に楽しんで生きていこうと思えば、エネルギー補充は大事です。若いころよりむしろ、代謝が落ちたと考えれば余計に栄養分を摂らなければいけないことになってきます。
そのとき欠かせないのが、前述のタンパク質です。カロリーも高く、筋肉や骨格を丈夫にするのがタンパク質なのです。肉類だけでなく魚介類や乳製品、植物性食品にも含まれていますから食材の範囲が広く、しかも料理がバラエティに富んできます。
そして忘れていけないのは「セロトニン」です。タンパク質に含まれるアミノ酸の一種であるトリプトファンはセロトニンの原料になります。
セロトニンは別名「幸せホルモン」とも呼ばれるくらい、脳内で作用すると私たちの気分を明るく解放的にしてくれます。うつの予防や治療にも使われる神経伝達物質ですから、タンパク質を摂ることで生活が朗らかになっていきます。
夫婦で向き合ってお茶漬けを食べる暮らしにもそれなりの味わいはあるでしょうが、「たまには贅沢しましょ」と割り切ってすき焼きを食べたほうが、はるかに幸せな気持ちになります。
そういう幸福感を、どんなに高齢になっても日常の中に持ち続けてください。それを生み出すのが肉や魚料理のタンパク質なのです。
和田 秀樹
国際医療福祉大学/ヒデキ・ワダ・インスティテュート/一橋大学国際公共政策大学院/川崎幸病院精神科
教授/代表/特任教授/顧問