年齢を重ねるにつれて、食卓に並ぶ料理が質素になってきている家庭も多いのではないでしょうか。「もう若くないんだから、昔のように肉を食べたいとは思わなくなった」と感じる人も多いようです。しかし、こうした食生活の変化が、実は健康な老後を遠ざけています。本稿では医師の和田秀樹氏の著書である『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』(マガジンハウス)より一部を抜粋し、日本の高齢者が抱える「栄養問題」について解説します。
「もう若くない」と思ったら「ステーキ」を食え!“70代で弱り始める人”と“まだまだ元気で生きる人”の決定的な違いとは?【医師が解説】
日本の高齢者は栄養不良になりかけている!?
2021年に99歳で亡くなった瀬戸内寂聴(じゃくちょう)さんは、死ぬ直前まで旺盛な執筆活動を続けていました。90代になっても毎日大勢の人と会い、元気に出かけていたのです。
そして寂聴さんは、90代後半まで3日に一度はステーキを食べるくらい肉が好きだったそうです。朝ご飯も茶碗に大盛りをペロリと平らげていたそうです。ふっくらとした丸顔で肌つやもよく、とても若々しい印象があります。
ところがほとんどの日本人は、高齢になると「もう動いていないんだから低カロリーでいい」「身体がそんなに肉を必要としなくなる」と考える人が多くなります。「もう若くないんだから、昔のように肉を食べたいとは思わなくなった」と、自分の実感としてそう感じている人もいるでしょう。でもそういう食生活に慣れてしまうと、老化がさらに進んでいくことがわかっています。
じつは高齢になるほどタンパク質を心掛けて摂るようにしないと、筋肉の衰えや減少が進み、老化が進んでいく可能性があるのです。
欧米の高齢者は70代、80代になっても肉や乳製品をたっぷりと摂ります。ところが日本の高齢者は朝ご飯は味噌汁と漬物があればいいとか、昼は蕎麦で十分とか、夜もせいぜいアジの干物があれば満足といった食生活になりがちです。
本人としてはそれでお腹が一杯になるし、胃にも負担のない健康的な食生活だと思っているかもしれませんが、圧倒的なタンパク質不足です。ご飯の量そのものも減ってきますからカロリーも不足してきます。
じつは高齢者の栄養不良というのは、厚生省もやっとその対策に取り組み始めたくらい見逃されてきた大問題なのです。そして実際に、80歳を過ぎても元気に生きている人は、肉や魚を毎日食べてタンパク質を摂っています。
ここで簡単な目安を挙げてみますと、70代の人に必要な一日のタンパク質の量は体重1キロあたり1グラムとされています。50キロの人なら50グラムです。
豚バラ肉100グラムに含まれるタンパク質は14グラムとされていますから、300グラムの豚肉を毎日食べていいし、食べたほうがいいことになります。
こういう数字を挙げてしまうと、「え? そんなに毎日食べるの!?」と驚く人が大勢いると思いますが、タンパク質は豚肉だけに含まれているものではありません。魚類にも豆腐や納豆のような大豆食品にも含まれていますから、肉だけでなくバランスよく組み合わせて摂取することが大事になります。
私が言いたいのは、「高齢になったら粗食で足りるし、そのほうが身体にもいい」というのは、とんでもない誤解だということです。