住まいにおいて「暑さ寒さをしのぐ」という機能を加えるために必要なのが断熱性能。こと冬場においては、断熱性能が高いと、少ない光熱費で家全体を暖かな空間にできるメリットがありますが、そのほかに「健康的な空気環境を作ることができるようになる」と、一級建築士・高橋みちる氏は言います。高橋氏の著書『やらなければいけない一戸建てリフォーム』より、詳しくみていきましょう。
アレルギーと断熱性能には「密接な関係」があった
でも断熱リフォームはお金がかかるから、とりあえず毎月の光熱費はかさむけど暖房器具で隅々まで暖めればいいのではないかしら? という考え方もありますよね。しかし、そこにも問題は出てきます。
冬場の空気は乾燥していますが、ただ室温を上げるだけでは湿度が下がってしまいます。湿度が低い「過乾燥」状態になると、ドライアイやアトピー性皮膚炎の悪化を招き、風邪やインフルエンザにもかかりやすくなってしまいます。
健康のために最適な湿度は50~60%といわれていますので、加湿して整えようと思うと、今度はこれが新たな不健康への入口となってしまう場合があるのです。というのも、暖房+加湿を行うと、窓などの断熱性の低い部分から「結露水」がどんどん発生してしまうためです。
断熱性の低い一枚ガラスの窓で、朝起きたら窓まわりがビッショリ濡れているなんていうことは、冬の風物詩ともいえるほど見慣れた光景ですね。
例えば室内が気温20℃、湿度50%のとき、一枚ガラスの窓は外気温が4℃を下回ると結露が発生します。「冬場は洗濯物を室内に干せば、お部屋の加湿ができて風邪予防に役立つ」なんていう生活の知恵もありますが、実はこれも断熱性の低い家ではNGな行為です。
洗濯物から蒸発した水分は、窓の結露水へと姿を変えて移動してしまうのです。また、特別な加湿をしなくても、人間の皮膚や呼吸から一晩にコップ1杯分の水分を放出するともいわれますし、石油やガスを使った暖房器具や調理機器からも燃焼によって水蒸気が放出されています。
このように、断熱性の低い家で快適な空間を作ろうとするほど、結露に悩まされることになってしまいます。
では、結露がなぜ悪いかというと、放っておくとカビの発生につながるからです。カビはアレルギーなどを引き起こすリスクが高く、人体には有毒な物質です。この結露水が引き起こすカビの繁殖が、健康への被害につながってしまうのです。さらに、カビが繁殖している場所にはダニも繁殖しやすくなります。
近年、ハウスダストやカビなどのアレルギー性疾患にかかる方が増えていますが、このような住環境からくる悪影響と関係があることが、最近では様々な研究により明らかになってきています。ここで、断熱性能とアレルギー性疾患などの健康被害との関係性を明らかにした、今日の様々な研究の基礎データにもなっている調査結果を一つご紹介させていただきます。
近畿大学の岩前篤教授が2003~2008年の期間を中心として新築の戸建て住宅に転居した約2万4,000人を対象に調査したもので、[図表2]は転居後の住まいの断熱性能によって健康上の諸症状が改善された人がどの程度いるか、その割合を示しています。
転居後の断熱性能を3、4、5とランク分けしていますが、3は平成4年基準(熱損失係数Q値4.2)、4は平成11年基準(Q値2.7)、5は平成11年基準を上回る基準(Q値2.0未満)とされています。
熱損失係数Q値とは、室内の熱をどれだけ逃がしてしまうかという性能を示す指標で、数値が大きいほど多くの熱を逃がし、数値が小さいほど断熱性が高いということになります。ちなみに最近はQ値ではなく、UA値(外皮平均熱貫流率)というより詳細な性能を示す指標が用いられています。
この調査でわかったことは、より断熱性能の高い家に住むことで、気管支喘息やアトピー性皮膚炎、目のかゆみなどのアレルギー性疾患を中心とした症状に対し、改善が期待できるということです。
断熱性能を上げることで結露が起こりにくくなり、アレルゲンとなるカビやダニの繁殖を抑え、寒く乾燥した季節でも湿度を上げて健康的な空気環境を作ることができるようになります。また、冬場でも室内では薄着で過ごせるようになることも、衣服から肌へ受ける刺激を減らせるなど、住環境の向上につながります。
このように、家の断熱性能を上げることは光熱費のメリットだけでなく、赤ちゃんからお年寄りまで安心して快適に暮らせる家になるということなのです。
高橋 みちる
リフォームコンサルタント
アールイーデザイン一級建築士事務所 代表