京都には、カフェやホテルとして利用できる名建築があります。そのなかには、2020年隈研吾の設計でリニューアルオープンした話題の建築物も。おさんぽしながら立ち寄りたい名建築の数々について、『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版 』(エクスナレッジ)著者の円満字洋介氏が紹介します。
2020年<隈研吾>の設計でリニューアルオープンした建築物とは!?…京都だけにある「名建築」を巡るおさんぽルート【専門家が解説】
2020年「隈研吾」の設計でリニューアルオープンした建築物
祗園の街風景に馴染む学校建築
1本東の室町通りの京都芸術センターは、旧京都市立明倫小学校だ。京都の小学校は、町衆が自分たちで出資して設立し、国の学制に吸収されるまで学校の先生の給料も自分たちが払った。つまり地域立の学校だったのである。この建物にも地域で集められた寄付金がふんだんに使われている。こうした支援は学校建築に地域性を反映させることにもなった。ここは祇園祭地区なので、正面の階段室は鉾をかたどったといわれている。3つの丸窓と2本の角を持ち、一見かたつむりのようにも見える。校舎内部もほぼ竣工時のまま残されており必見だ。現在、芸術センターとして活用されており部分的に入場もできる。カフェもあるぞ。
片岡らしいセセッション
烏丸通りと蛸薬師通り角のフローイングカラスマは、片岡安らしいセセッションスタイルだ。片岡は建物を1枚のタペストリーのごとくデザインする。ボリューム感もなく、陰影は薄く、簡略化された装飾を平面的に散りばめるのが特徴だ。この建物はそんな片岡好みの典型である。
洒落たレンガ造の元馬小屋
高倉通りの水口弥は、元運送業者の馬小屋だと聞いている。入り口が左に寄っているのは、右側に馬を入れたからか。旧笹屋倉庫ともいい、アーチのキーストーンの「さ」は笹屋の「さ」で、よく見れば、隣接する土蔵の鬼瓦下にも「さ」はある。京都商工大鑑(1928)の運送業者一覧に笹谷清次郎があり、住所もぴったりなので笹屋はこの人なのだろう。その後笹屋がどうなったかよりも、ここにいた馬たちがどうなったのかが少し気になる。
冬しか見えないファサード保存
水口弥のひと筋西には、ウィングス京都がある。せっかく外壁保存したのに、なぜこんなにたくさん街路樹を植えるのか。ファサードは木の葉の落ちた冬に見るのがよろしい。
マンサード屋根に窓が残る
烏丸通りから三条通りを西へ入った文椿ビルヂング、竣工時は西村貿易の社屋だった。西村家は京都を代表する京友禅の老舗千総の当主で、高島屋の飯田家と並んで伝統工芸の近代化に功績のあった家柄だ。さて、この建築はファサードが改造されている。1、2階窓の間の縦ラインは戦後の改造だろう。トップのくさり模様も当初は通っていたように見える。マンサード屋根(腰折れ屋根)に窓が残っているのは珍しく、銅板の飾りがアールヌーボー風かドイツ表現主義的に見える。
電話局の転用例
ルート最後の新風館は、2020年に隈研吾の設計でリニューアルオープンした。建物は逓信省の吉田鉄郎の設計で、1926年に竣工した。電話局として使われてきたが、2001年にリチャード・ロジャースの改修設計で商業施設「新風館」として再生した。このとき元の建物の東半分を失っている。今回のリニューアルでは、ロジャースの設計した部分を解体してホテル棟に建て替えている。北側玄関は吉田の設計した当初のもので、教会堂のような交差ボールト天井が見事だ。外壁のタイルの模様貼りも楽しんでほしい。
円満字 洋介
建築家