老後生活の基盤となる公的年金。「ねんきん定期便」を確認しながら老後の準備をしている夫婦も多いでしょう。しかし、その準備は「万が一」の事態までカバーできているでしょうか? 突然の不幸に見舞われた場合、残された家族は……FP Office株式会社の宮本誠之FPが、具体的な事例を交えながら「万が一の事態」を乗り切る方法について解説します。
年金月26万円で「老後は安心」のはずが…夫を亡くした53歳女性「生活が成り立ちません」と嘆いた〈遺族年金額〉【FPの助言】
Aさんが存命でも80歳で老後破綻…A家に待ち受ける「厳しい現実」
FP事務所で出迎えた筆者は、Bさんから一連の話を伺ったうえで、B家のこれまでの収支見込みと今後の収支見込みをシミュレーションすることにしました。
ご主人存命時の収支予測と毎年の貯蓄増減シミュレーション
まずは、Aさんがご存命だった場合の収支見込みです。
Aさんの想定年収は60歳まで800万円超、61歳~65歳で600万円となります。この年収であれば、夫婦の老齢年金は計320万円程度になる予定でした。
支出としては、[図表1]のように、Bさんが57歳のころまで長男の教育費がかかるほか、63歳まで住宅ローンがかかる見込みでした。年間支出は57歳時点で900万~1,000万円程度、63歳時点で650~700万円程度、Aさんの退職後は300万円程度(年金とほぼ同等)の年間支出になっていたと思われます。これにインフレ係数(物価上昇率)を1%程度加味した支出が、老後に渡って続くという想定でした。
この場合、預金額は[図表2]のように65歳の年金受給開始時点までは支出と釣り合う程度に推移しますが、昨今のインフレ等で継続的な生活費の上昇があった場合は、80歳前後でキャッシュアウトしてしまう計算になります。
また、長男の大学4年間の学費については、一部教育ローン等で100万円~200万円前後の資金調達の必要性がありました。
主人の突然の死で、家計はより苦しいものへ
Aさんが亡くなられたBさんには遺族年金が支給されます。しかし受給額は年間140万円(月11.7万円)ほど。遺族年金は65歳からではなく現時点から支給されますが、Aさんの収入を補うことは難しいでしょう。
また、団体信用生命により住宅ローンの支払いはなくなりますが、教育費については、現状の進学計画では、高校3年生から大学卒業まで5年間で、約800万円の支出があります。
Aさんが存命の場合でも、シミュレーションではAさんが65歳で退職すると同時に家計が赤字となり、年間70万~120万円程度の赤字が続く見込みでした。しかし、Aさんが亡くなってしまったことで、現状はより厳しいものになっています。
遺族年金と生命保険金では、おそらく長男の学費捻出がやっとです。毎月の生活費もかかりますから、現在の貯蓄と保険金の合計1,000万円は、長男の大学卒業時にはほぼ0になる見通しです。
このシミュレーションを受けて、Bさんは「遺族年金ってたったこれだけしかもらえないんですか? このままでは生活が成り立たちません……」と嘆きました。
もっとも、BさんはAさんが亡くなってからすぐ、近所のクリニックに看護師として復職できないかと相談していたそうです。しかし、ブランクは否めません。年収は240万円ほどになりそうとのこと。
Bさんが働けるとなればもちろん家計の助けになりますが、退職後は貯蓄がマイナスになる、つまり家計破綻の可能性を示唆しています。依然として遺族年金だけでは厳しい現実が残りそうです。