「日本の伝統食」が骨折・転倒を防ぐ

厚生労働省の「国民生活基礎調査」のなかに、介護を受けている人が介護が必要になった原因を調べた項目があります。これによると、女性は「認知症」に続いて「骨折・転倒」が第2位、男性も「骨折・転倒」が第4位でした。

骨折・転倒を予防し、強い足腰を作るためのヒントについては詳しく検討しますが、まず大切なのがカルシウムとビタミンDの摂取です。

カルシウムが不足すると骨が弱くなるのは、カルシウムの仕事が骨を強くすることだけではないからです。細胞の分裂と成長、筋肉の収縮にかかわるだけでなく、神経の興奮をしずめ、必要なときに血液を固まらせるなど、重要な多くの仕事をまかされています。

骨が弱くなっても、ただちに危険が起きることがないのにくらべ、他の作用のなかには命に直結するものがあります。そのため、体内でカルシウムが不足すると、脳の指令で骨に含まれるカルシウムが血液に溶け出して、カルシウムを必要とする組織に運ばれます。それにより骨が弱くなるのです。

昔の日本人は牛乳を飲む習慣がほとんどなく、海藻や緑黄色野菜、大豆、小魚などからカルシウムを摂ってきました。現在でも日本人のカルシウム摂取量はアメリカ白人の半分しかありませんが、骨粗鬆症の発症率はアメリカ白人のほうが2倍高いのです。骨の強さには遺伝が強くかかわっており、アジア人は平均して骨が強いようです。

また、海藻や緑黄色野菜、大豆、小魚のカルシウムが効率よく働く可能性もあるでしょう。とくに大豆にはカルシウムに加えて、骨からカルシウムが逃げ出すのを防ぐ成分が多く含まれています。豆腐、納豆、味噌などの大豆製品でもかまいません。

強い骨を作るにはカルシウムの他にビタミンDも必要です。ビタミンDにはカルシウムの吸収を促して、骨を新しく生まれ変わらせる働きがあります。日本人はビタミンDの約9割を魚から摂取しているため、健康寿命を延ばすには、EPAとDHAに加えてカルシウムとビタミンDも豊富な魚が鍵を握っているといえますね。今のところ、日本人の大部分がビタミンDを十分に摂れていますが、魚の摂取を減らさないよう心にとめる必要があるでしょう。

緑黄色野菜の効果も見逃せません。九州大学が実施している「久山町認知症研究」は、認知機能を維持するのに役立つ食生活のパターンを調べています。69~71歳の男女635人に医師や看護師が聞き取り調査を行って、食生活と認知機能の関係を分析しました。

すると、大豆と大豆製品、緑黄色野菜、海藻、牛乳、そして魚を多く摂取し、あまり飲酒しないグループは認知症の発症率が40パーセントほど低いことが明らかになりました。その逆に、ご飯ばかり多くて、おかずの少ない食生活は認知機能の低下と関連していました。これだけ聞くと、米はよくないのかと思いそうになりますが、米の摂取量と認知症の発症率には関連が見られませんでした。

調査を実施した専門家らは、問題はご飯が多いことではなく、おかずが少ないことだとしたうえで、「野菜、海藻、魚を含めて、まんべんなく食べる食生活が老化防止に働くようだ」と述べています。海外には、緑黄色野菜を多く食べると認知症の発症率が40パーセント下がるというデータもあります。

魚を中心とする動物性蛋白質と、大豆、海藻、緑黄色野菜をしっかり食べること。これが、百寿者が共通して行っており、科学的にも十分に裏づけがある「4つの習慣」の第一です。

奥田 昌子
医師