右肩上がりの国民医療費、国民負担はもう限界
来年令和6年は、2年に1度の診療報酬改定の年です。その改定の中身を巡り、中央社会保険医療協議会で議論が重ねられていますが、今年の7月には調剤についての議論がスタートしました。
その資料から、薬局に関連する経営データを確認してみましょう。
まず、国の医療費(国民医療費)ですが、高齢化を背景に、総医療費は年々増加しており、令和3年度の概算総額は44兆2,000億円となっています。そのうち、調剤医療費は、約7兆7,000億円です。
高齢化による医療費の増加圧力は年々高まっていますが、国民の社会保険料(健康保険料、介護保険料、年金保険料)負担は収入の3割を超えており、これ以上の総医療費を増加させることは困難であり、効率化と圧縮が求められています。
増加を続ける薬局…「薬剤師余り」時代の到来
次に、薬局の数を確認しましょう。国内の薬局数は増加の一途をたどっており、令和3年度には約6万2,000店となっています。
薬局数同様に、薬剤師の数も増え続けており、令和2年では32.1万人が届け出られています。このうち、薬局に勤めている薬剤師は18万9,000人です※。
※ 中央社会保険医療協議会 総会(第550回)「調剤について(その1)」
また、これから将来にかけての、薬剤師の数と需給の推移を示したのが、下の[図表3]です。
令和2年度には32万5,000人だった薬剤師の供給数は、令和27年度には、43万2,000人から45万8,000人程度に増加し、一方、令和27年度の薬剤師の需要数は、33万2,000人から40万800人程度の範囲で増えるとされています。
ここから、令和27年度においては、最小で2万4,000人、最大で、12万6,000人もの薬剤師が供給過剰となると推計されていることがわかります。「薬剤師余り」時代の到来です。
病院、クリニックが発行する処方箋の状況
増え続けてきた処方箋枚数は、令和3年度で約7.7億枚となり、ピークをつけたようにも見えます。また、処方箋受取率は、令和3年で75.3%です。処方箋受取率はおおむね医薬分業率を表しており、残りの約25%は院内処方となっています。
また、薬局の店舗あたりの処方箋受付回数を見ると、令和4年度9月調査では、1,661回が平均になっていますが、これはやや多く、令和2年度調査で、月あたり平均1,200回、令和3年度で同1,366回となっています。過去のデータからは、1,200回程度が平均だといわれています。
薬局や薬剤師の過剰が「総医療費」の上昇を招く
上記により、現在の薬局を巡る状況として第1に指摘できるのは、現在の時点ですでに、薬局も薬剤師も飽和状態だということです。
実際、かつて厚生労働省や、日本薬剤師会などが推計したデータによれば、処方箋7億枚に対して薬局2万店舗程度が適正だとされていました。
そこから考えると、現在8億枚弱の処方箋が発行されていますが、せいぜい3万店舗くらいが薬局の最適数ではないでしょうか。6万店以上の薬局が存在する現状は、明らかに過剰だということです。
薬局や薬剤師の過剰は、総医療費の上昇を招きます。
財務省が作成している「令和5年度予算執行調査資料」によれば、調剤報酬のうち、調剤基本料等の技術料については、薬剤師数の増加により、薬剤師1人あたりの処方箋枚数が減少している一方、処方箋1枚あたりの技術料は上昇しており、これによって、薬剤師1人あたりの技術料は、おおむね横ばい程度の推移で維持されています。
これは、見方を変えれば、薬剤師1人あたりの処方箋枚数減少を補うために、技術料を引き上げ、総医療費を上昇させてきたともいえます。
しかし、今後、薬剤師の需給ギャップが拡大していく中で、これまで通りのやり方で、薬剤師1人あたりの技術料を維持することは不可能になるでしょう。
一方、調剤報酬のうちの調剤基本料については、処方箋集中率による区分が設けられています。処方箋集中率は、調剤薬局が扱う処方箋のうちに占める特定の医療機関の割合により測られる指標です。極端に言えば、1つの医療機関の処方箋しか扱わない薬局は集中率が100%になります。
財務省のデータによれば、地域支援体制加算の要件が緩和される「調剤基本料1」の薬局の中でも、全体の5割が処方箋集中率70%以上、また、4割が85%以上となっており、集中率の高い門前薬局でも、調剤基本料1を算定できる状況となっていることが問題として指摘されています。
今後は「門前からかかりつけ、そして地域へ」の流れが加速する
そもそも、平成27年に厚生労働省が公表した「患者のための薬局ビジョン」では、今後の我が国における薬局のあり方として、従来の門前薬局から、かかりつけ薬局に、そして、地域において他職種と連携しながら、地域包括ケアの一翼を担う存在となることが期待されています。
そのために、地域支援体制加算も設定されたわけですが、処方箋集中率が85%を超えるような門前薬局が、同加算を受けられる状況はその意図に反しており、今後は是正を図るべきであることが同資料でも指摘されています。
今後は、調剤報酬の改定などにより、「門前からかかりつけ、そして地域へ」の流れが加速することが見込まれ、それはクリニックの経営にも多大な影響を与えていくでしょう。
本記事の背景を踏まえ、詳細を次の記事『クリニック開業…これからの連携薬局は「ドラッグストアチェーン」が第一候補といえるワケ』で解説いたします。