初めて「公道」での定常運行を実現した茨城県境町
同じく乗務員が添乗する自動運転バスの事例としては、20年11月25日、茨城県境町が5年間で5.2億円もの予算を確保して、ソフトバンクの子会社BOLDY(ボードリー)やマクニカと連携し、ハンドルのない自動運転バスの定時運行を開始しています。
電車の駅がなく、高齢の住民が多い境町では、公共交通機関が強く求められていたものの、現行のバス会社は人手不足やドライバーの高齢化、経営難などの課題を抱えており、新規でバス路線を増やすのは困難でした。
そこで自治体が、少ない人手でローコストに運用できる自動運転バスの実用化に積極的に取り組むことに決めたのです。
このバスは当初、多目的ホールと道の駅を繋ぐ往復約5kmのコースで定時運行を開始しました。
順調に運用できることを確認すると、翌21年2月には病院や子育て支援センター、郵便局、小学校、役場、銀行など、住民がよく利用する施設前にバス停を設置し、利便性が大きく向上しました。
そして、21年7月には2路線に増やして全長約20kmにまで延伸します。しかも、新設した路線の終点は境町と東京駅を繋ぐ高速バスの発着ターミナル。境町の自動運転バスは、“町内の足”から東京駅への移動を容易にする交通機関へと進化しました。
バスやトラックの運転士不足が顕著になる「2024年問題」を前に、超高齢社会で顕在化する課題をICT技術で解決しようと、多くの企業が自動運転バスの開発に取り組んでいます。そして、道路交通法や条令、さまざまな許認可の壁を乗り越え、安全性を向上しながら、自動運転バスは着実に実用化が進められているのです。
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神崎洋治
TRISEC International代表取締役
ロボット、AI、IoT、自動運転、モバイル通信、ドローン、ビッグデータ等に詳しいITジャーナリスト。WEBニュース「ロボスタ」編集部責任者。イベント講師(講演)、WEBニュースやコラム、雑誌、書籍、テレビ、オンライン講座、テレビのコメンテイターなどで活動中。1996年から3年間、アスキー特派員として米国シリコンバレーに住み、インターネット黎明期の米ベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材した頃からライター業に浸る。「ロボカップ2018 名古屋世界大会」公式ページのライターや、経産省主催の「World Robot Summit」(WRS)プレ大会決勝の審査員等もつとめる。著書多数。