GPPってどんな病気?
GPPとは膿疱性乾癬(汎発型)の英語の病名であるGeneralized Pustular Psoriasisの頭文字をとった略語です。
膿疱性乾癬は、乾癬という皮膚の病気のうち、発熱や倦怠感、皮膚の潮紅とともに無菌性の膿疱(うみを持った水疱)がたくさんあらわれるタイプの乾癬で1)2)、限局型(発疹・膿疱が身体の一部に出ている状態)と汎発型(発疹・膿疱が全身に広がっている状態)に分類されます。GPPは難治性であることや治療に急を要することなどから、厚生労働省が定める指定難病に指定されています2)。
GPPは乾癬の一種に分類されていますが、もっとも一般的な乾癬の種類である尋常性乾癬とは症状や発症に至る体内のプロセスがことなります。ここではそのようなGPPについて詳しくご紹介します。
患者数や性差、発症年齢は?
GPPはとてもまれな病気です。日本の乾癬患者さんの数は人口の約0.3~0.4%、約43万~56万人と推計されていますが3)4)、GPPはこのうちの約0.33~2.3%、教科書的には「乾癬全体の約1%」といわれています5)。
指定難病であるGPPは医療費の受給対象となりますが、2020年におけるGPPの特定医療費を受給している患者さんは全国で2,058人です6)。近年は、毎年約80人の患者さんが新規に受給しています。
日本におけるGPPの男女比は1.0:1.2と女性にやや多くみられますが、誰にでも発症しうる病気といえます7)。発症年齢の分布は男性では40代と60代、女性では20代にピークがありますが、全年齢層に分布しています8)。
どのような症状があらわれる?
GPPの症状は炎症が強く、皮膚だけではなく全身にみられるという点が尋常性乾癬と異なります。
GPPはいくつかの種類に分類されますが、典型例としては急性汎発性膿疱性乾癬(von Zumbusch[フォンツンブッシュ]型)があげられます1)7)。
急性汎発性膿疱性乾癬では、最初は灼熱感とともに全身の皮膚の赤み(紅斑;こうはん)があらわれ、多くの患者さんではこの時に悪寒を感じ高熱が出ます。また、全身のむくみや関節の痛みがあらわれることもあります。
その後、紅斑の上にたくさんの膿疱があらわれます。この膿疱は白血球が集まったものですが、細菌感染が原因のものではない(無菌性膿疱といいます)ので他人にうつることはありません2)。
このようなGPPの急性症状(フレアとも呼ばれます)があらわれる前に、患者さんによっては尋常性乾癬の症状がみられている場合もあり、日本のGPP患者さんの69.8%に、尋常性乾癬か乾癬に関連する合併症があったと報告されています9)。
また、GPPには、いったん症状が治まっても、症状の悪化が繰り返しあらわれるという特徴があります。
日本での調査によると、GPPの診断時にフレア※が起こっていた患者さんは86.3%で、診断後に最長で10年間経過を追ったところ、34.1%の方がフレアを経験していました。
GPPと診断を受けてから1年以内にフレアを経験した方がもっとも多いですが、なかには診断を受けて数年後にフレアがあらわれた方もいます9)。
フレアを引き起こしたり、症状を悪化させたりする要因としては、感染症、妊娠、ストレスなどがあげられます9)。気になる症状や変化があったときには、すぐに医師に相談することが大切です。
※ この調査では、専門家による委員会で膿疱性乾癬による皮膚症状または全身症状があり、かつ症状の悪化や継続がみとめられると判断されたものを指します。
GPPがあるとかかりやすい病気は?
GPP患者さんに併発しやすい(かかりやすい)病気として、関節炎とぶどう膜炎があげられます。
関節炎
GPP患者さんの約30%の方に関節の痛みなどの関節炎の症状がみられると報告されています10)11)。
関節炎は進行すると関節が変形し、生活に支障をきたすこともあるため、早期に適切な治療を受けることが大切です。また、関節炎が長い間続いた患者さんでは、まれにアミロイドと呼ばれる繊維状のたんぱく質が胃腸や腎臓、心臓に沈着することで、胃腸障害や腎不全、心不全を発症することがあります7)。
ぶどう膜炎
ぶどう膜炎とは眼のなかに炎症を起こす病気の総称です。ぶどう膜炎の併発頻度は高くないものの、乾癬患者さんでは一般の人よりもかかりやすいといわれており12)、乾癬のなかでもGPPは併発しやすいといわれています13)。
症状としては、眼が充血している、眼が痛い、眼がかすむ、視力の低下などがあります14)。放置すると失明の恐れもありますので、これらの症状がみられたらすぐに眼科を受診しましょう。
原因は?
GPPを含む乾癬の発症原因はいまのところ明確になっていませんが、遺伝的素因と環境因⼦の相互作⽤により、からだの免疫システムに異常が⽣じることで発症すると考えられています。
免疫システムとは本来、細菌やウイルスなど異物の侵⼊を防ぐ重要なシステムですが、なんらかの原因により異常が起きると異物がないのに活性化してしまい、その結果として炎症が起きてしまいます15)。
遺伝的素因とは乾癬を発症しやすい体質のことをいい、環境因子としては感染症、薬剤の使⽤、気候、精神的ストレス、睡眠不⾜‧⾷事などの外的な因⼦と、糖尿病や脂質異常症、肥満などの内的な因⼦などがあります。この遺伝的素因に環境因子が加わることで乾癬が発症‧悪化すると考えられています15)。
また、最近の研究から、乾癬患者さんの免疫システムの異常に「炎症性サイトカイン」という物質が重要な役割を果たしていることがわかってきました。サイトカインとは、細胞間の情報伝達を担う物質で、そのなかでも炎症を引き起こすものを炎症性サイトカインといいます。
GPPの発症にはIL-36という炎症性サイトカインがかかわっていると考えられています。尋常性乾癬の症状がなくGPPを発症した患者さんの多くは、このIL-36の働きを抑える物質(IL-36Ra)を作るIL36RN遺伝子に変異があり、IL-36Raの機能が著しく低下していることが明らかになりました2)15)。
また、尋常性乾癬の症状があるGPP 患者さんの一部では、炎症を起こすCARD14遺伝子に変異があり、炎症反応が高まってしまうことも明らかとなっています2)15)。
ただ、これらの遺伝子変異もすべてのGPP患者さんで認められるわけではなく、原因は現在のところはっきりとはわかっていません。感染症や妊娠、ストレスなどを契機に皮膚の細胞が分泌する炎症性サイトカインが高熱の原因となり、血液中の白血球を皮膚に呼び寄せて膿疱を形成すると考えられています2)。
診断・検査はどのように行う?
GPPの診断にあたっては、皮膚症状と全身症状の観察、および皮膚症状が繰り返しあらわれているかどうか、という点が重要となります。また、皮疹部の皮膚の一部をとって検査する皮膚生検も、確実な診断のために行われます。血液検査も炎症の程度や併発症の有無を確認するために行われます。
●皮膚症状の観察項目2)7)
□全身あるいは広い範囲の皮膚に発疹(皮疹)があらわれているか
□赤みを帯びた皮膚の上に、膿疱(膿をもった水ぶくれ)がたくさんみられるか
□膿疱はいちど良くなっても、何度も繰り返しあらわれるか
●全身症状の観察項目2)7)
□発熱、もしくはだるさがあるか
□全身のむくみ、もしくは関節の痛みがあるか
□眼に炎症がみられるか
●皮膚生検7)
皮疹部の皮膚の一部をとって顕微鏡でみることで、GPPに特徴的な変化を確認します。
●血液検査の検査項目(例)7)
□白血球数……炎症の程度を評価します。炎症が強くなるほど白血球数は増加します。
□CRP(C反応性たんぱく)……炎症の程度を評価します。炎症が強くなるほどCRP値は上昇します。
□血清アルブミン……腎機能障害などの併発症を評価します。
□血中カルシウム……腎機能障害などの併発症を評価します。
重症度の評価
GPPの重症度は、皮膚症状の程度、炎症の程度をスコア化し、その合計点数により軽症、中等症、重症に分類されます。このうち、「中等症以上」または、軽症であっても高額な医療を継続することが必要な患者さんは、難病医療費助成制度の対象となります。