トルコの大統領選は現職エルドアン氏が3選目を果たしましたが、米国やNATOはネガティブな影響を受ける可能性が高いと懸念されています。みていきましょう。

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トルコ大統領、現職のエルドアン氏が接戦を制す

2023年5月28日、トルコ大統領選の決選再投票が行われ、現職のエルドアン氏が3選を果たしました。

 

今回の大統領選は、1回目の選挙の投票率が86.67%に達するほどに高い関心が寄せられましたが、当選に必要な50%以上の票を得た候補がいませんでした。そこで49.51%を獲得し首位に立ったエルドアン氏と、44.88%で次点についたクルチダルオール氏の2名から1名を選ぶ決選投票にもつれ込みました。

 

反欧米路線で保守層からの支持を集めるエルドアン氏と、好戦的な外交を批判し融和路線を築こうとしたクルチダルオール氏の一騎打ちは、エルドアン氏に52.14%、クルチダルオール氏に47.86%の票が投じられる大激戦となりました。

 

名目GDP世界19位(2022)を誇り、黒海越しにロシアとウクライナの両国と隣り合い、NATO加盟国でもあるトルコは、世界の政治と経済に多大な影響を与えうる存在です。それを証明するかのように、エルドアン氏の勝利が決するや、早速さまざまな変化が起こりはじめています。今回は、その一部を紹介します。

スウェーデンのNATO加盟が遠のく

領土侵犯を重ねるロシアに対する危機感から、フィンランドとスウェーデンの北欧2カ国がNATOへの加盟申請を行ったのが2022年5月のことです。それから約1年の時間をかけ、4月4日にようやくフィンランドの加盟が成立。しかし、スウェーデンはいまだに加盟を果たせていません。その理由は、トルコの拒否権です。

 

NATOでは、新たな加盟国を受け入れるには全加盟国の合意を必要とするルールが設けられています。エルドアン氏はこのルールを盾に、西側諸国にさまざまな要求を突きつけています。当事者であるスウェーデンに対する最大の要求は、スウェーデンに亡命中のクルド労働者党(PKK)構成員の引き渡しです。トルコ、イラク、イラン、シリアの国境地域に住む民族・クルド人が自決権やクルディスタン地域の自治を求めて創設した組織で、トルコを中心に活動を行っています。PKKはときに武力的な手段を用いたことから、トルコ政府は彼らをテロ組織と見なし取り締まってきました。その取り締まりを率い、保守層からの支持を集めたのが、他ならぬエルドアン氏です。

 

引き渡し要求は、スウェーデンに住む約10万人のクルド人が約10万人のうち、トルコ政府がPKK構成員ではと目星を付けた人物が対象でした。スウェーデンは対象の人物を国内裁判にかけ、非合法的な活動が認められた人物をトルコに引き渡しましたが、トルコ政府はこれに満足せず、NATO加盟申請への同意拒否が続いています。やるべきことはやったと主張するスウェーデンと、不十分だと主張するトルコ。エルドアン氏の再選により、平行線はますます長引くと予想されます。

アメリカへの兵器販売圧力が高まる

トルコは、先のNATO加盟問題や、ロシアおよびウクライナとの関係性を背景に、アメリカにも圧力をかけてきました。その最たるものが、ジェット戦闘機F-16をはじめとする兵器を販売を求める呼びかけです。

 

アメリカの議会では、トルコ政府がクルド人をはじめとする少数民族に対して非人道的な姿勢であることや、周辺国に対する好戦的な態度を理由に、兵器提供に反対する声が多数上がっています。

 

エルドアン氏は、電話で再戦を祝福したバイデン大統領に対し、F-16調達への意志を改めて伝えたと報じられており、トルコの軍拡に対する懸念が広がっています。

トルコリラが暴落

トルコの法定通貨トルコリラは2008年以降(エルドアン氏の大統領初就任は2014年)、対ドルで下落の一途を辿っていますが、今回の選挙によってその傾向がますます加速されました。

 

エルドアン氏は、ピーク時にはインフレが80%にも達したという、トルコ国内の未曾有の物価高を無視し、低金利政策を続けてきました。その理由こそが、今回の選挙であったと言われています。つまり、利上げによる支持率低下を恐れたのです。結果、トルコの金利政策は市場と乖離したものとなり、国際的な信用は失墜しました。

 

エルドアン氏当選確定後の5月30日、トルコリラはわずか1日で1.2%下落し対ドルで20.36リラという過去最安値を記録しました。6月13日現在、リラ安はさらに進行し、23.67リラまで落ち込んでいます。

 

以上のように、エルドアン氏の当選は、世界の政治および経済にネガティブなインパクトを及ぼしています。トルコの大統領任期は5年間。この期間に、トルコと世界はどのように変化していくのでしょうか?

 

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本記事は、富裕層のためのウェブマガジン「賢者の投資術」(Powerd by OPEN HOUSE)にて公開されたコラムを、GGO編集部にて再編集したものです。