日本にチャンス、加速するAIエコシステム
このように中国ベンチャー投資界隈ではAIに対する幻滅が広がっていたのですが、ChatGPTという風口の登場によって2023年には再び熱気が戻ってきているようです。しかも前述したような大手IT企業によるChatGPTに対抗しうるサービスの開発だけではなく、ChatGPTを活用した派生サービスも新たな風口になりそうです。
企業のマニュアルやゲームのシナリオなどの文書作成、法務や財務など専門知識の情報収集、エクセルなどのオフィスツールのヘルプサービスなどの機能が、利用者の教育コストが低い対話型インターフェイスを通じて提供できるようになります。
オープンAIなどのAIの開発元が直接、個別企業やニッチなニーズに対応したプロダクトを開発することはなく、ベンチャー企業を含めたサードパーティーによる二次開発が加速すると予想されています。
そこで問題となりそうなのが政治問題です。一党独裁の政治体制である中国では、体制批判や指導者批判の発信は厳しく取り締まられます。AIが生成した文章が取り締まり対象に該当するというリスクは、AIの積極的な採用の足を引っ張りかねません。
すでにこの危惧が現実化した例もあります。中国AI企業・元語智能は2月3日にチャットボットサービス「Chatyuan」を公開しましたが、わずか3日で公開中止となりました。台湾メディア「TAIWAN NEWS」は、「Chatyuan」が「ウクライナ問題はロシアによる侵略」など、中国政府と異なる立場のテキストを発信したことが問題になった可能性があると指摘しています。
その意味では、民主主義の国で言論の自由度が高い日本のほうがAIを許容しやすい環境にあると言えます。二次開発がビジネスチャンスとなるのは日本企業も同じです。情報キュレーションアプリ「グノシー」は、オープンAIのプロダクトを利用して、動画コンテンツの要約記事を作成するサービスを発表しています。今後も同様の動きが続くとみられます。
そして、オープンAIが開発中の新たな大規模言語モデル「GPT-4」は年内にも公開される見通しです。さらに能力が強化されたAIとの対話、協業が日本でも広まりつつあり、新たなビジネスチャンスとなりそうです。
*****************************
高口康太
ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。
2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。