中国に肩を並べる米国
今後、中国版ChatGPTが続々と登場することは確実です。中国にはそれを可能とする蓄積があります。
ChatGPTは「GPT-3.5」と呼ばれる大規模言語モデル(LLM)を基盤としていますが、中国もこの分野に手を付けていなかったわけではありません。バイドゥの「アーニー(文心一言)」、通信設備端末大手ファーウェイの「盤古」、北京智源人工知能研究院の「悟道2.0」などの大規模言語モデルが構築されています。
また、AI研究全体で見れば、中国は世界をリードする存在です。スタンフォード大学人間中心AI研究所(HAI)の報告書「2022 AI Index Report」によると、AI関連の論文数では中国が全体の31.04%とトップ。EU・英国の19.05%、米国の13.67%を引き離しています(【図表1】参照)。
中国は米国に肩を並べるAI大国としての地位を確立しているわけです。しかし、その中国の内部から「ChatGPTには差を見せつけられた」との声が上がっています。
清華大学コンピューター科学技術学部の黄民烈副教授は、デジタル化とAIに関する中国語専門メディアの「数智前線」の取材に応じ、「オープンAIの長所はユーザーのフィードバックをもとにAIを改良し、その改良されたAIをもとにさらにユーザーを集めるという歯車が機能している」ことだと指摘しました。オープンAIが開発したAIを活用して新たなサービスを作り出すベンチャー企業がいくつも誕生しており、いわゆる「エコシステム」が形成されつつあるわけです。
一方、中国の大規模言語モデルは派手な発表こそあるものの、社会実装では後れを取っています。バイドゥをはじめ、自社開発のAIを外部提供している企業は多いものの、顔認証や画像分析、動作解析など一部にとどまっているのが現実です。研究による新たな発見や進展は多いのですが、利益を生み出しているのはこうした顔認証などの過去の発見にとどまっています。
ChatGPTのようなヒットを生み出すには、現時点ではコストに見合うだけの利益があげられない分野でも投資と研究開発を続けられるかが問われます。中国は現実にフォーカスし実利を追求する傾向が強いがゆえに、長期的成果を待つ忍耐心では劣るともいわれています。
実際、AIがなかなか利益につながらないことから2022年にはベンチャーマネーの投資額が急減しています(【図表2】参照)。