コロナ禍により、不動産業界は大きな変革を強いられています。そこで台頭してきたのがIT業界がリードする新世代サービス「不動産テック」です。日常的に行われる内見案内や契約事務のほか、価格・賃料査定、ローンシミュレーション、賃貸管理などといった幅広い業務をデジタルベースへ置き換えていくのが不動産テックの役割ですが、現場においてどの程度取り入れられているのでしょうか。今回は不動産営業の“入口”ともいえる賃貸物件の内見案内に焦点を絞って見ていきましょう。※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
コロナで進化した不動産サービス…賃貸物件は「オンライン内見」から「VR内覧」へ (※写真はイメージです/PIXTA)

IT業界主導による「不動産テック」の誕生

 

この由々しき状況下、不動産業界の窮地を救うべくIT業界が掲げたのが「不動産テック」です。不動産テックとは、一般社団法人不動産テック協会によると「VR(Virtual Reality)・AR(Augmented Reality)」「IOT(Internet of Things」「スペースシェアリング」「リフォーム・リノベーション」「不動産情報」「仲介業務支援」「管理業務支援」「ローン・保証」「クラウドファンディング」「価格可視化・査定」「マッチング」「物件情報・メディア」の12のカテゴリーからなるもので、同協会がつくる「不動産テックカオスマップ」には、カテゴリー毎に各種サービスを提供するIT関連企業の名が連ねられています。

 

それらの中でもとくに人気のサービスは、

 

・ネット上で簡単にできる不動産ローン・買取査定

・不動産仲介会社向けの営業サポート

・不動産管理会社や賃貸オーナー向けの賃貸管理サポート

・不動産業者を介さない売主・買主間の直接売買サポート

・売買価格・家賃相場分析サポート

・VR内見サポート

 

などです。この中で最も多くの不動産業者から重宝されているのは、やはり内見案内に関わるサービスではないでしょうか。

家具配置が自由自在な「VR内覧」も登場

 

前述の「オンライン内見」は不動産テックの初歩的なもので、まだまだ改善の余地があります。直近の内見サポートツールでは、360度カメラで撮影した賃貸物件の室内画像を不動産会社のホームページに上に掲載した「VR内覧」サービスが好評です。

 

さらに、バーチャル画像上で室内の寸法を測ったり、設置したい家具や家電を画面上で仮想配置したりできるAI(人工知能)技術を加味した最新鋭のVR内覧サービスもスタートするようです。ここまでできれば、諸事情で現場に行けない顧客、遠方から部屋探しをしなければならない顧客のフラストレーションも大幅に解消できることでしょう。

 

これらのサービス、実は顧客のみならず、不動産業者のスタッフの身の安全を守るという意味でもメリットがあります。以前、内見案内中の不動産会社スタッフが、内見客から暴行されるという事件がありました。事前に個人情報を得ていたとしても、初見の顧客とスタッフが2人きりの密室に置かれることには、それなりのリスクがあるといえます。オンライン内見やVR内覧の積極的な導入、そしてさらなる進化は、そういった犯罪リスクの軽減にも、大きな役割を果たすと考えられるのです。

まとめ

 

停滞・頓挫していた不動産業界のIT化は、コロナ禍によって劇的に進展しました。なかでも、内覧、重説をはじめとする各種業務のオンライン化の実現は画期的だといえます。これらが不動産業界のスタンダードとなれば、ウィルス感染リスクのみならず、スタッフの安全確保にもつながります。古い殻を破り、多くのIT企業とリンクすることで、不動産業界に新たな風が吹いているのです。

 


高山敦子

フリーライター

住宅業界、IT業界への取材・執筆経験多数。