2022年11月21日、米マスターカードCEOマイケル・ミーバック(Michael Miebach)氏は、日本経済新聞のデジタル版に掲載されたインタビューの中で、「すべての年齢層で生体認証決済の利用が増えるとみており、この分野に投資していく」と話しました。単に「生体認証決済が主流となる未来が訪れる」とも捉えられますが、この発言の本質は「マスターカードのような国際カードブランドが、従来の『カード』という物理的対象から離れ、デジタルデータを通じた『認証』で決済を行う事業へとシフトしていくこと」にあるといえます。※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
スマホも持たず、「手ぶらで」買い物も?生体認証技術と少し未来の決済システム (※写真はイメージです/PIXTA)

これまでの「生体認証システム」

多くの人が知るように、銀行ATMやオフィスビルの入室システムなど、生体認証のシステム自体は20-30年前から採用されてきましたが、広く市民権を得たとは言えないのが現状です。メガバンクである三菱UFJ銀行やゆうちょ銀行が、ATMでの指紋認証や「手のひら認証サービス」の廃止を今年になって発表するなど、20年来のサービスが縮退に向かってさえいます。使い勝手や利用率などの問題で、広く支持を得られなかったのが理由と思われます。

 

しかし一方で、iPhoneのTouch IDやFace IDに代表されるスマートフォンでの生体認証は広く導入と利用が進んできました。前述のゆうちょ銀行では、従来のATM上での指紋認証の代替として、スマートフォンでの生体認証へとシフトしようとしています。

生体認証決済の国内事例

生体認証決済における国内事例としては、2018年に富士通がイオンクレジットサービスと提携して、「手のひら認証」を使った生体認証決済の実証実験をミニストップの一部店舗で開始されています。

 

また同年には、NECがセブン-イレブンと共同で、顔認証を使った店舗入店とセルフレジでの決済システムの実証実験を開始しています。どちらのケースも、社員限定での実証実験で、一般開放は行われませんでした。

 

NECとセブン-イレブンの実験では、顔情報と社員証を紐付けることで、給与天引きの形での決済が行われる仕組みとなっていました。詳細は後述しますが、生体認証では事前に「生体情報」と「決済情報」を紐付ける必要があり、これが利用開始におけるハードルの1つとなっています。

大国、米・中の「生体認証決済」事情

世界に目を向けると、中国での事例が比較的有名です。Alibaba Group傘下のAnt Financialでは「支付宝(Alipay)」というスマートフォン決済サービスを提供していますが、一時期同社は同サービスと顔認証を組み合わせた仕組みの普及に熱心でした。

 

同じく同国内で展開されているKFC店舗の注文用KIOSK端末には顔認証用のカメラが設置されており、物理カードやモバイルアプリでのQRコードの提示なしに「顔情報のみ」での支払いが可能となっています。開始当初は、比較的先進的な仕組みとして各メディアでも報道され話題となりましたが、筆者が中国を何度か訪問する中で利用している客の姿を見たことはなく、やはり従来型のカードやモバイルアプリの方が優勢だったという印象があります。

 

 

もう1つ、ここ最近で話題となったものに、米Amazonが展開する「Amazon One」があります。「手のひら情報」で認証を行うサービスで、「Amazon Go」と呼ばれる無人レジ店舗への入場のほか、オーガニックスーパー Whole Foods Marketのレジでの会計など、Amazon系列の店舗で利用が可能です。

 

Amazon Go自体が画期的で、事前にクレジットカードなどの決済情報を登録したAmazonアカウントをモバイルアプリに登録しておき、アプリに表示される2次元コードを店舗入り口のリーダーに読み込ませることで入店できます。あとは店舗内の商品を手に取ってそのまま外に出れば、Amazonアカウントの決済情報を元に、手に取った商品が自動で決済される仕組みとなっています。

 

Amazon Oneはモバイルアプリと2次元コードの代替となるもので、Amazonアカウントやモバイルアプリを持たないユーザーであっても、クレジットカードをAmazon Oneのリーダーに挿入し、携帯電話番号の入力と「手のひら情報」の登録を行うだけで同社系列店舗に入店ができます。

 

 

現在、AmazonはAmazon Goの無人レジ店舗のシステムである「Just Walk Out」に加え、このAmazon Oneの仕組みの外販を進めており、米テキサス州ダラスにあるハーツフィールド空港内のHudson News店舗に、Just Walk OutとAmazon Oneの仕組みを導入することに成功しています。

 

Amazonアカウントというオンラインを主軸にビジネスを進める同社ですが、リアル店舗での接点としてのAmazon Oneを重視しており、今後はHudson以外にもAmazon系列以外でこの仕組みを利用可能な店舗が増えてくることが予想されます。