現実の視野の中に画像やテキストの情報などを映し出すことに加え、視線を操ることで、デバイスの操作もできるようになるという「ARコンタクトレンズ」。しかし、近い未来にそのようなことが実現できるのかという疑問を持つ人もいるでしょう。そこで今回は、ARコンタクトレンズの開発の現状や課題、将来像などについてみていきましょう。※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
SFの世界が現実に?「ARコンタクトレンズ」で見えた“未来の景色” (※写真はイメージです/PIXTA)

そもそも「ARコンタクトレンズ」とは?

(画像はイメージです/PIXTA)
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自分の目で見ている風景の中に、さまざまなデジタル情報を表示するのがAR(拡張現実)。すでに実用化されており、ポケモンGOなどのスマートフォンのゲームやSNOWといったカメラアプリで、実際に使ったことがある人も少なくないかもしれません。

 

これらのように現在のARは、スマートフォンや専用のメガネ型ディスプレイなどを使用するのが前提ですが、それらのデバイスを使わず、より簡単に、そして便利にARの世界を実現できると期待されているのが、「ARコンタクトレンズ」です。

 

ARコンタクトレンズとは、現在主に視力矯正のために使われているコンタクトレンズに、ディスプレイや通信、モーションセンサーなどの機能を搭載。一般的なコンタクトレンズと同じように直接目に装着することで、視野の中に画像や文字などによるさまざまな情報を表示することができたり、視線を動かすことによって操作ができるデバイスです。

 

コンタクトレンズにARの機能を搭載することで、スマートフォンやメガネ型ディスプレイとは異なる完全ハンドフリーを実現できることなどから、これまで以上に幅広い分野でAR技術を活用できるようになると考えられています。

ARコンタクトレンズ開発の現状は?

(画像はイメージです/PIXTA)
(画像はイメージです/PIXTA)

 

ARコンタクトレンズの研究開発は、世界中の企業や研究機関で行われています。なかでも実用化が近いと注目されているのが、米国Mojo Vision社が2020年1月に発表した「Mojo Lens」です。

 

Mojo Lensの大きさは、一般的なコンタクトレンズより一回り大きい直径17mm。その中心部に直径0.5mm弱で、1インチあたり14,000ピクセルの解像度を備えているモノクロマイクロLEDディスプレイを搭載。視界を遮らない周辺部に、超低遅延通信(※)が可能な5GHz無線や視線の動きを正確に追跡する加速度センサー、ジャイロスコープ、磁気センサー、1日中稼働できる程度のマイクロバッテリーなどを内蔵しながら、一般的なコンタクトレンズと同様に装着時の違和感が少ないものを目指しているといいます。

 

(※)タイムラグを極めて小さく抑えることのできる通信ネットワーク

 

これらの機能を搭載することによってMojo Lensは、目の動きで操作するハンズフリーのユーザーインタフェースを実現。視線を動かしても映像は安定したまま表示される一方で、加速度センサーで常に目の動きを追い、視線の動きに合わせて情報の表示範囲を変えます。また視線はポインターの役割も担い、視野の中で決められた場所を凝視することで、表示内容の変更といった操作をすることも可能になります。こうした機能によって、将来的には移動中や運動中、会話中でも動作を中断させることなく、欲しい情報にアクセスできるような世界を目指しています。

 

では、このMojo Lensの開発は、実際にどの程度まで進んでいるのでしょうか。Mojo Vision社のホームページによれば2022年6月、同社のドリュー・パーキンスCEOが、Mojo Lensの試作版を世界で初めて装着し、ワイヤレス通信によって、自分の視野に投影された文章を読むことができたそうです。また、これと前後して日本でも試作品が公開されました。こちらは目に装着するコンタクトレンズではなく、レンズを外側から覗き込むというものでしたが、視界の中にテキストや画像による情報が表示される体験ができました。