話題の「オンライン内見」、どんな感じ?
勤務先近くの賃貸マンションを探している、ある会社員の女性。内見を申し込んだ不動産業者から送られてきたURLをクリックすると、パソコン画面に女性スタッフの笑顔が映し出されました。
これから「オンライン内見」を申し込んだ賃貸物件のライブ中継が始まります。
「まずは建物1階のエントランスからご案内していきますね!こちらのオートロックの開錠方法は…」と女性スタッフの説明は流暢です。共用廊下を通ってエレベーターに乗り、内見目的の部屋へと向かいきます。
「よいしょ…」スマホ片手のスタッフがぎこちなく玄関ドアを開けると、原状回復リフォームが施されたきれいな室内が、画面いっぱいに広がりました。23㎡とちょっと狭めのワンルームですが、高性能のスマホカメラで撮影しているせいか、なかなかの見栄えです。
キッチン、バスルーム、クローゼットと室内を一通り撮影し終えると、「ほかにご覧になりたいところはありますか?」と女性スタッフから声がかかります。「バルコニーからの眺望を見せてください」とリクエストすると、風光明媚とまではいきませんが、上層階の抜け感ある風景が広がります。「これなら、のびのび暮らせそう…」内見者の女性も、生活のイメージが湧いてきます。
バーチャルではあるものの、印象は及第点。初期費用も予算内に収まるため、ネット上の入居申込みフォームに記入・送信しました。
このあとは、家賃保証会社の審査を経て賃貸借契約へと進みますが、従来は対面で行われるはずの重要事項説明もWeb会議アプリで完了。不動産業者の店舗へ一度も足を運ぶことなく入居まで至りました。
不動産業界に重い腰を上げさせた「コロナ禍」
未曽有のコロナ禍が勃発してから早3年。2020年春以降の不動産業界は営業店舗の閉鎖や売買・賃貸契約の延期を強いられ、まさに“青息吐息”状態。「お客様と会えない」ことがこれほどまでに大きな障壁になると誰が予想したでしょう。
コロナ禍によってダメージを受けた業種は多々ありますが、同じ接客業である小売店や飲食店がネット通販やデリバリーでリカバーできる点を考えれば、「一生に一度の買物」とも謳われる高額商品を扱う不動産業が、もっとも痛手を負ったのではないでしょうか。
たとえ賃貸物件でも、数十万円の初期費用がかかる契約です。「ネットでポチッと」なんて安易に成約が取れるわけがありません。そのため、不動産業界団体はこれまで先送りにしていた〈各種業務のオンライン化〉を急ピッチで進めざるを得なくなりました。
真っ先に着手したのは、オンラインによる重要事項説明システムの構築、すなわち「IT重説」の実現です。これまでは宅建士が契約者と相対して重説を行うことが鉄則でしたが、コロナ禍で困難を極める取引状況を鑑み、現在では「zoom」などのWeb会議アプリを活用してリアルタイムの相対環境を作ることができれば、遠隔地間であっても重説義務は果たせるというお墨付きが得られました(国土交通省「IT重説本格運用」)。
不動産業務のオンライン化に欠かせないのはIT業界の後押しです。実はコロナ禍前から、大手IT企業等により水面下で準備が進められていたものの、旧態依然とした不動産業界の体質や、旧来の契約形式にこだわる投資家たちの影響でプロジェクトは停滞・頓挫気味でした。
令和の時代にあっても「契約・引渡の日取りは大安吉日に」と希望する契約者は多く、「日取りはさておき、パソコンを通しての契約なんてもってのほか!」という声もまだ聞かれます。しかし、コロナ禍にあってそんな悠長なことを言っていては商売上がったりです。
東京商工リサーチの「コロナ禍における不動産業のアンケート」調査によると、コロナの影響を受けて「業況が悪化した」と答えた不動産業者は約9割、その原因には「契約キャンセル」「営業自粛」などを挙げているといいます。加えて、政府から受けた事業支援金が過剰債務となり、廃業を余儀なくされる業者も今後増えるのではないかと予想されています。