米国議会では、下院議長が決まらず、15回も投票を行うという異例の事態となりました。それにより、上下院のねじれが悪化するのではという懸念が……政治や経済への影響を考えていきます。

アメリカの下院議長選挙、15回目の投票までもつれ込む

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アメリカの下院与党は、11月の中間選挙で民主党から共和党に入れ替わりました。これにより、議長の改選が必要になり、その選挙が1月3日から行われていました。この選挙が、何度投票しても議長が決まらず、15回目にしてようやく決定するという異例の事態に。

 

通常であれば、議長は与党選出の議員にすんなりと決まります。議長に就任するには議員定数の過半数に当たる218票を獲得する必要がありますが、二大政党制のアメリカに置いて与党であることは、過半数の議席を持っていることを意味するからです。実際、1789年以来127回行われてきた下院議長選のうち、2度以上の投票が行われたのはわずか14回。そのうち、13回は二大政党制が確立する前の南北戦争以前の投票です。南北戦争以後は、ちょうど100年前にあたる1923年に1度だけ再投票が行われたきりでした。

 

共和党の現在の議席は222で、過半数ギリギリではあるものの、問題なく議長を決定できる議席がありました。しかし、フタを開けてみると再投票に次ぐ再投票。下院は年始から大混乱に陥りました。

トランプを諌めたケビン・マッカーシー氏が議長に

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最初の投票から4日経った1月7日、15度目の投票でようやく議長が決定。結果的には、既定路線通り共和党選出のケビン・マッカーシー氏が議長に就任しました。マッカーシー氏がこれほどまでに苦戦した原因は、ほかでもない共和党内の不和にありました。

 

というのも、マッカーシー氏はトランプ前大統領支持者による連邦議会議事堂襲撃事件に際し、電話でトランプ氏を制止しようと激しく口論した人物だからです。マッカーシー氏への投票を拒否した造反共和党議員は20人いましたが、そのうち17名は中間選挙においてトランプ氏の支持を受けていました。また12人は、大統領選においてバイデン陣営が不正をしたというトランプ氏の主張を支持しています。このように、トランプ氏と近しい議員たちがマッカーシー氏の議長就任を阻止しようと動いたのです。

 

当のトランプ氏は、4日時点でマッカーシー氏支持を表明し、共和党員に向けて彼に投票するようにと呼びかけていましたが、その声は届きませんでした。

造反議員の要求により、上下院のねじれが悪化する?

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15回目の投票で翻意した造反議員たちですが、ただで引き下がったわけではありません。自分たちが決戦表を握っていることをいいことに、様々な要求をマッカーシー氏に突きつけ、譲歩させました。

 

大きなところでは、議長の解職投票の実施権限を一般議員に与えたと言われています。これにより、マッカーシー氏の発言力は極めて弱くなります。これにより、強気な議会運営が行えなくなるため、わずかに意見が割れるだけでも議論が前進しなくなるのではと懸念されています。

 

また、国民生活への影響が大きい話題としては、社会保障をはじめとする歳出の削減・抑制について強い要求があったようです。債務が膨らんでいる米政府は、現在のままの連邦債務上限を保とうとするとデフォルト確実と言われており、上限の引き上げが絶対に必要ですが、そのためには上下院の賛同が必要です。造反者たちは、この危機を逆手に取り、引き上げを許可する条件として、歳出を大幅に削減するように要求しろというのです。これは、バイデン政権や民主党が与党である上院の方針と真っ向から対立するもので、政治や経済の混乱が懸念されます。

本記事は、富裕層のためのウェブマガジン「賢者の投資術」(Powerd by OPEN HOUSE)にて公開されたコラムを、GGO編集部にて再編集したものです。