大手金融機関に新卒で入社するも、自分が思い描く理想と現実のギャップを受け入れられなかったKさん。50歳になった現在の赤裸々な家計事情をみていきます。
気づけば50歳、元エリート銀行員…成功願望に取り憑かれた「意識高い系貧困」の深刻な家計事情 (※写真はイメージです/PIXTA)

就職氷河期に大手金融機関に就職したKさん

Kさんは現在50歳。都内の有名私立大を卒業してから大手金融機関に就職しました。就職した年は1995年。就職氷河期と呼ばれる時代の最初期でしたが、Kさんにとってはさほど苦労した就活ではありませんでした。

 

実家の両親も大手企業に就職できたことをとても喜んでいたものの、Kさんにとってその就職は、退屈な生活の始まりのように思えました。Kさんは大学生時代から強い「成功願望」があったのです。成功願望とはいっても特に明確な目標があるわけではなく、「大きな成功をして有名人になりたい」「優れた何者かになりたい」という思いを強く抱いていました。1990年代初期に流行っていた大学生向けの自己啓発セミナーに入れ込んだり、成功マインド本を読み漁ったりして大学の4年間を過ごしました。

 

とはいえ、やりたい目標もみつからずとりあえず就職したという感じだったのです。そんな調子だったため、金融機関での仕事は最初から躓いてしまいました。仕事を覚えようと必死に頑張る同期たちをどこか冷めた目で見ている自分がいました。やる気のない態度を上司に叱責され、仕事でもミスを繰り返してしまう。しかし現実から逃避するように、家に帰ると大学生のときと変わらず独立指南の雑誌や自己啓発本を読み漁っていました。

 

そんなKさんは就職からわずか2年で金融機関を退職してしまいました。これからどうするのかと尋ねる上司に「起業します」といいましたが、上司は冷めたような表情でした。

転職先は生命保険会社の営業

Kさんは当時雑誌などで話題になっていた生命保険会社の営業員に転職をします。そこは従来のイメージの保険会社とは違い男性社員が中心の会社としてビジネス雑誌などで話題でした。収入は完全歩合制で「成果で得られる収入に上限はない」という謳い文句がKさんにとって魅力に映ったのです。喫茶店で採用を担当する人物に会ったとき、高級スーツを着て高級車に乗って現れ、Kさんはすっかりのぼせ上がってしまいました。

 

この仕事で「成功者」になれるのではないかとKさんは興奮しました。しかし、実際はKさんの持つカッコいいイメージとは違い、生命保険営業はコネと人情が大切な古い世界です。前職で培った社会的信用とコネを生かして先輩方は人脈を広げていましたが、やる気なく銀行員を2年間勤めただけのKさんには、社会的信用もコネもありません。なんとか家族や大学時代の友達に保険を売ってしのいでいたものの、給料は毎月15万円程度。仕事の経費もかかるため、生活費に使えるのは毎月数万円。家賃を滞納することが増え、Kさんは消費者金融を繰り返し利用するようになってしまいました。その督促の電話が会社にかかって来ることもしばしば。

 

保険会社の仕事も成績不振により2年で退職勧告を受け、辞めてしまいます。残ったのは500万円にもおよぶ借金だけでした。保険会社を退職して再就職したのもまた保険会社。結局そのあと5社を渡り歩きました。その都度借金が膨らむばかり。5社目を辞めたときには客や友人からの信用はなくなり、1万円すら貯蓄もない45歳の独身男性となっていました。

 

借金を返すために時給1,000円で運送会社の倉庫でアルバイトをしながら、Kさんは成功願望を捨てられず、さらにさまざまな商売に手を出すようになっていきます。ネットワークビジネス、学習塾のフランチャイズ、絵画商法、同窓会名簿、近年ではブログでのアフィリエイト、暗号通貨の投資、オンラインサロンなど……。

 

すべて上手くいきませんでした。アルバイトの収入で食べていただけです。最近では国民健康保険料を頻繁に滞納し、国民年金は最後にいつ払ったのか覚えていないほどです。現在は50歳となり、これからの人生を考えるべき時期にさしかかっています。Kさんの交際相手の女性Sさん(50歳)がその惨状を心配し、弊社のFPに相談しようと誘ってくれたのです。