各メディアでよく目にするようになった「親ガチャ」という言葉を解説します。昔から自分の親に対する不満・批判の言葉は様々あったものの、今このスラングが当たり前のように使われている背景には一体何があるのでしょうか。
言葉の由来や詳しい意味、または世間が捉えている印象など「親ガチャ」について深く掘り下げて調査しました。
1.「親ガチャ」というスラングはどういう意味?
親ガチャとはネットから生まれた俗語で「親を自分で選べないこと」を指します。どんな境遇に生まれるかは、自分自身では選べずに完全に運任せになっているという意を表す言葉です。
この言葉は親や家庭状況に不満がある若者を中心に広がっています。一体誰がいい出したのか、具体的にどのような場面で使われるのか詳しく見ていきましょう。
1.1.「親ガチャ」は誰がいい出した?由来はゲームやカプセルトイ
「親ガチャ」はTwitterで広がり、いつ誰が最初にいい出したという明確な情報はわかっていませんが、ネット民が言葉遊びのひとつとして発信したスラングです。
その由来はソーシャルゲームやカプセルトイといわれています。ゲームではガチャと呼ばれるくじ引きで、強いアイテムやキャラクターの入手を目指し、またカプセルトイでは目当ての品を狙います。それらはすべて運任せで、自分の思い通りにならないことが多い点を「親への不満」に重ね合わせて使用されています。
1.2. どういう場面で使われているのか
基本的にはネガティブな意味で使われることが多くなっています。
「親ガチャがハズレたせいで貧乏だ」
「親はすぐ批判するし、親ガチャにハズレた」
など、親への批判・不満を表現するときに使われているのをよく目にします。
しかしすべてがネガティブな意味ばかりで使用されるわけでもありません。
「うちは親ガチャ当たりで幸せ」
「親ガチャハズレたけど自分の人生は自分のものだし」
このように前者では、親への感謝や前向きな意味でも使われています。また後者でも親ですべてが決まるわけではない、人生は自分で切り開けるといった前向きな発言のようにとれます。
1.3. 「親ガチャランク」なるものまで存在している
親ガチャには、ゲームでよく使われるR(レア)やSR(スーパーレア)といったようなランクまで存在しています。
使われている例を調査するとそのランクはZ(最低ランク)から始まり、E・D・C・B・Aと上がっていき最高はSSR(ダブルスーパーレア)とされています。
親ガチャの当たりハズレだけでなく、ランク付けまでされているのは、世間にこの言葉がだいぶ認識されている結果の表れといっても過言ではないでしょう。
2. 親ガチャの当たりハズレって?親の年収や容姿が基準になる
では、親ガチャの当たりハズレの基準は一体どこにあるのでしょうか。
主に以下があげられます。
2.1. 年収
最も多いのは親の収入面です。とくに未成年者の生活は親の収入に頼らざるを得ません。低年収の家庭だと、金銭面による制限も多々ありそれが不満となってガチャの基準に反映されています。
金銭面に不自由なく暮らしている場合は、当たりとして分類されています。
2.2. 見た目
美魔女やイケオジといった、若見え・おしゃれなど中年層を表す表現が多くなったいま、その容姿が基準になる場合も増えています。親が見た目に無頓着だと恥ずかしさからハズレと表すケースもあるようです。
また親の顔立ちは遺伝することも多いため、自分の容姿に満足しているか不満があるかによって当たりハズレを判断してしまうことがあるようです。
3.「親ガチャ」というスラングに批判の声が多い
言葉の広がりと共に「親ガチャ」というスラングには批判する声も多くなっています。Twitterのトレンドに上がったのをきっかけに、ネット上では「親ガチャ」に関する論争が一気に巻き起こりました。
3.1. 親ガチャという言葉自体が嫌い
そもそも「親ガチャ」という言葉自体を嫌悪する声も上がっています。
不平不満があるとはいえ、自分を生んでくれ育ててくれた親に対して「ガチャ」という遊び要素を織り交ぜた言葉を使うこと自体が嫌、またはこうしたネットスラングに対しては、ふざけている・軽薄といった意識を持つ人も多くなっています。
敬遠する人たちからは、たとえ内容がネガティブでもポジティブでも失礼な表現だという意見も聞かれます。
3.2. うまくいかないことを親のせいにしているだけでは?という批判
自分の人生が思うように進まない、上手くいかないことが多い場合、それを「親ガチャでハズレたからだ」と親に対して責任転嫁してしているのではないかという声も上がっています。
確かに「生まれた場所・境遇は運だったとしても、その後の人生は自分で作り上げていけるものだ」という考えを持つ人は「親ガチャハズレ」と他人のせいにして、不平不満をいう人に「努力することを諦めた人間なんだ」という印象があるようです。
3.3. 深刻な問題を軽い言葉で表現することへの批判
ただ不平不満があるだけではなく親との間に、本当に深刻な関係を抱えている場合など、事態が重い人も多数いるでしょう。そんななかで「親ガチャ」という軽いネットスラングで表すのは不適切だという指摘もあります。
ハズレたと笑って済ませられる人がいれば、本当に生活や命に困窮している人もいるのが現代社会の闇。
経済格差だけでない、様々な問題がはびこるなかで、言葉遊びから生まれた表現を充てるのは不快だと感じている人もいるのです。
4. 親ガチャというスラングが流行るのは深刻なことなのか
情報番組などでも取り上げられた「親ガチャ」ですが、そこでも各コメンテーターたちが様々な議論を繰り広げている場面を度々目にしました。
まるで一大事のように扱う大人もいますが、果たしてこの「親ガチャ」というスラングが流行るのは深刻な社会問題なのでしょうか。
もしかすると若者たちは深刻に考えず軽い気持ちで使っていたり、大人が敏感に反応しすぎていたりするだけなのかもしれません。順番にみていきましょう。
4.1. 若者は軽い気持ちで使っている
いわゆるネットスラングという俗語は、昔から唐突に生まれては度々話題を呼んでいます。そして主に若者を中心に広まり、一時的な流行りとして使われてきました。
今回の「親ガチャ」についてもそういったケースに当てはまり、大体の若者は軽い気持ちで口にしていると評するコメンテーターも複数います。
ちょっとした愚痴を、いま流行っている言葉を利用して表現しているだけであり、それ以上の深い意味はないのではという意見もあがっています。
4.2. 大人たちが過敏に反応しているだけなのかもしれない
逆に「親ガチャ」という言葉に過剰反応しているのは大人たちなのかもしれません。若者の流行り言葉を重い話題として取り上げて発信していくことで、まるで一種の事件のようにどんどん深刻になっていく……と私見を述べる人もいます。
親に対する不平不満を「親ガチャ」とギャグ風にいう若者たちに、たくましささえ感じると、肯定的な意見も見られます。
子供世代と親世代にある捉え方のギャップが、この「親ガチャ」の意味を複雑にしていると伺えます。
5. 親ガチャと似たスラング「毒親」とは?
「親ガチャ」が流行る前から、同じく親に対するスラングとして「毒親」という言葉が広がっていました。
「毒親」はその体験談などが多数書籍化もされ、書店で目にする機会が多かったのも記憶に新しいのではないでしょうか。
ここでは毒親とは何なのかについて見ていきましょう。
5.1. 毒親とは子どもに悪影響を与える親のこと
毒親に明確な定義はありませんが、子どもが成長していく過程で悪影響を及ぼす育て方をしており、子どもにとって「毒」となる親を指します。
いわゆる虐待に始まり、ネグレクトや精神的支配なども含まれます。子どもが過度なストレスを受けることを繰り返し、身体的・精神的に負担をあたえる行為は「毒」であると指摘されています。
こうした親を持った子どもは大人になってもトラウマを抱えることが多く、長い人生のなかでずっと「毒親」と闘うことになる人も多くいます。
5.2. 親ガチャにハズレても毒親とは限らない
同じく親に対する不満の意味で使われても「親ガチャ」と「毒親」はまったく意味が異なります。つまりこの2つのスラングはイコールではありません。
人生に大きな影響のある「毒親」に対して「親ガチャ」はもっとカジュアルに使われています。ちょっとした親との喧嘩、他人と比べての評価などで「親ガチャ」は簡単にハズレという表現が当てはまってしまいます。
そのため「親ガチャ」と「毒親」については、まったく違った意味合いで使われている言葉として捉えなくてはなりません。
6. 親ガチャに関連する深刻なデータも存在する
一方で「親ガチャ」に対する深刻なデータも発表されています。それは主に親が抱える金銭面での問題で、それが結果的に子どもの勉強・進学など将来に関わっていることが内閣府の調査で明らかになりました。
6.1. 貧困層の「授業がわからない」割合が他の層の3倍に
貧困層に対しては、教育の格差も問題になっています。
2021年に内閣府が全国の中学2年生とその保護者5,000組に対して行った「令和3年(2021年) 子供の生活状況調査」(回収率54.3%)の結果によると、「授業の内容がわからない」と答えた生徒の合計は貧困層が24%となり、それ以外の層の3倍にもなりました。
成績自体も貧困層は「やや下・下のほう」の割合が52%となっており、それ以外の層の2倍にもなっています。
こうした教育格差が出てしまう家庭事情については、現代社会の問題ともいえます。
6.2. 進学したくてもできない割合も貧困層が高い
また、上記調査結果では、進学の見通しに関しても「大学またはそれ以上」と答えた貧困層は28%でそれ以外の層の半分以下となっています。
保護者自体も、進学の見通しは「高校まで」という回答が多く、理由は家庭の経済的な事情が半数近くを占めていました。また子どもも自分の学力や家庭の事情を考慮して、高校までと答えるケースも増えています。
こうした学力の差が生まれてしまうことは、子どもが自分の将来を不安視する要因にもなっています。
7. 親ガチャの現実とわが子への対応
景気が低迷期にある日本社会では、世論調査で50年後の未来に対して「暗い」と回答している人は6割にも上っています。前向きになりにくい現代で、自分の親や境遇を不安・不満に思う若者が増えたことが「親ガチャ」というスラングの流行をあと押ししています。
7.1. 知能や性格の多くは遺伝によって影響を受けるという研究結果がある
遺伝学の研究が進んだ21世紀、知能や性格の多くは親からの遺伝の影響を受けるという研究結果が発表されました。また容姿などの外見や、才能・年収・離婚率などにも一定の影響があるとされています。
そして、親の収入の違いによる学力格差も如実になってきており、裕福な家庭の子供ほど大学への進学率が高くなっています。
こうした点からも「自分の人生は親で決まってしまう」つまり、人生は運でガチャだと考える子供が増えてしまう状況が生まれているのかもしれません。
7.2. わが子に「親ガチャにハズレた」と言われたら意見交換してみよう
もし自身の子どもに「親ガチャにハズレた」と言われたら、まずは意見交換をしましょう。
子どもは思春期を迎えると、自然と自分の将来について視線を向けていきます。その際に「親ガチャにハズレた」「親のせいで自分は今不幸だ」などと言われてしまった場合は、まず話し合うことが大切です。親も万能ではないこと、自分の人生は自分自身で進むものといったように、お互いの気持ちや考えを伝えましょう。
また、発表されている統計学等はあくまで参考データであるとして、情報に過度に振り回されないよう諭すことも大切です。
7.3. 危険と救いの要素をあわせ持つ親ガチャというスラング
親ガチャは「自分のせいじゃなくて運が悪かっただけ」と他人に責任を押しつける考えを助長してしまう危険があります。
しかしその一方で、深刻な家庭問題を抱えたり虐待を受けたりしている人にとっては「自分の境遇はまだ変えられる」と、その場から抜け出そうとする前向きな力になる場合もあります。
親子の関係・家庭環境は十人十色です。そのため、使われる「親ガチャ」という言葉も様々な意味合いがあり、決してひとつにまとめられるものではないのです。
8. 若者の間で使われるさまざまな○○ガチャ
「親ガチャ」が広がったことにより、若者たちの間ではほかにもガチャに例えた俗語がどんどん生み出されるようになりました。
当たりハズレがあり、運によって事態が変わる人・場所・事柄はなんでもガチャに例えられます。
8.1.【上司ガチャ】若者にとって重要なガチャ
入社した会社、もしくは新しく配属された上司に対しての表現です。
部下を理不尽に叱る、仕事の教え方が下手、失敗を部下のせいにする……など一切尊敬できない上司に当たってしまった場合にはハズレとされます。
逆に尊敬できる上司に巡り合えた場合には当たりとして「上司ガチャ」は使用され、主に新卒世代の若者たちの間でよく見られる使い方です。
8.2.【新卒ガチャ】配属先を選べないことを表すガチャ
新卒の社員が配属先についての当たりハズレを表現するときに使われます。
特に大手の会社では入社直後の配属先は自身で選べない場合も多く、まさに若者たちには「運次第」と考えられています。自分の得意分野、気の合う同僚、尊敬できる上司に出会えればまさにガチャ大当たりとなりますが、逆にハズレを引く可能性もあります。
結果、早期転職などが増えているのも実情です。
8.3.【隣人ガチャ】騒音がひどい・ゴミ屋敷などはハズレとされる
新居として選んだ家、もしくは自分の家の隣に引っ越してきた人などの表現に使われます。
迷惑な騒音やゴミ問題、クレーマーなど、これこそ実際に住んでみないとわからないため、運次第の「隣人ガチャ」とされています。
ガチャの失敗だけでなく、隣人トラブルにも発展する可能性もあり、ときには深刻な問題となる場合もあります。
まとめ
「親ガチャ」はネット上から冗談や遊び心を込めて生まれたスラングだったかもしれません。しかし、これが世間一般に広まることで、様々な社会問題も浮き彫りになってきました。
「親ガチャ」は発する側にとって、どの位の重要性があるのか、その言葉の意味の裏に本当のSOSがあるかなど、使う側はもちろん聞く側も推測する心構えを持っておくべき言葉だといえます。
生まれては消えるネットスラングはその本質を見抜くことが大切です。