「天然ガス」がウクライナ情勢のカギを握る
アメリカとロシア、両国が互いに牽制し合う状況が続いているウクライナ情勢(2022年2月15日時点)。両国の攻防のカギを握る重要なファクターが“天然ガス”です。
先日、アメリカが欧州向け天然ガスの輸出量を前年比4倍に増やしたことが報じられました。これはアジア向けに輸出予定だった天然ガスをヨーロッパに振り分けたことによるものです。
また、この緊迫した状況下で天然ガスの価格は不安定なものとなっており、2022年1月末にはニューヨーク市場の天然ガス先物が一時70%以上の急激な値上がりを記録後、下落。価格の乱高下が注目を集めました。
こうした状況を踏まえて、ウクライナ情勢において、天然ガスが重要な意味を持つ理由とは、どのようなものなのでしょうか?
ロシアは、ヨーロッパの天然ガス供給元となっている
実はロシアは、天然ガスの輸出額および埋蔵量が世界最大規模を誇る国家。2022年の天然ガス輸出額は約330億ドルで、2位のカタール(約205億ドル)や3位のアメリカ(約187億ドル)を大きく上回る額となっています。
そして、ロシアの天然ガスの主要輸出先となるのがヨーロッパで、70%ほど(2020年6月実績で74.4%)を輸出。EU側から見ても2020年の天然ガス輸入元の最大取引国はロシアとなっており、輸入割合の43.9%がロシアからとなっています。
2位のノルウェーからの輸入割合が19.9%であることからも、EUの天然ガス資源におけるロシアへの依存度の高さが伺えます。
環境負荷が低い化石燃料として注目される天然ガス
そもそも天然ガスは、ウクライナ情勢抜きに近年価格が高騰していた資源でもあります。その大きな理由として、世界的な気候変動や環境意識への高まりによる“脱炭素”への世界的なシフトチェンジが挙げられます。
ヨーロッパを中心に、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーや水素燃料へのシフトは以前から進んでいますが、現在の技術ではそれらだけで必要なエネルギー量をまかなうのは、まだまだ難しい状況です。そこで、化石燃料のなかでも環境負荷の小さな天然ガスがエネルギー資源の“つなぎ役”として求められている事情があるのです。
天然ガスは石炭や石油に比べ、燃焼時の二酸化炭素排出量が少なく、硫黄を含まないことや、窒素の含有量も微量。その他の有害ガスの排出量も非常に少ない、貴重な化石燃料とみなされています。また、近年では化石燃料の排ガスの二酸化炭素量を抑える「CCS」「CCUS」といった技術の実用化も進んでおり、こうした技術と組み合わせることで、実質的に天然ガスの二酸化炭素排出量をゼロに近づけることも期待されています。
ロシアの「対ヨーロッパ最大の交渉カード」が天然ガス
ウクライナは、地理的にロシアとヨーロッパに挟まれた場所に位置しています。ウクライナを支援するアメリカとしては、補給や派兵の基点となる後方支援基地が必要で、そうした意味でもヨーロッパ諸国との連携が必要不可欠です。
一方、ロシアはアメリカとヨーロッパの連携を阻止するためにも、天然ガスという資源をカードにして、ヨーロッパに圧力をかけている状況があります。重要なエネルギー源でもある天然ガスが不足すると、ヨーロッパ経済や市民生活に大きな支障が出ることは間違いなく、そうした事態を避けたいヨーロッパは、ロシアに対してなかなか強気な態度に出れない事情もありました。
こうした状況を打破するために、アメリカはヨーロッパへの天然ガス輸出量を増やし、また同盟国である日本にも天然ガスを融通するように要請している状況です。各国から外交上の「武器」や「交渉カード」としてみなされている天然ガスですが、ウクライナ情勢の緊迫状況が続く限り、相場にはまだまだ乱れが見られそうです。