「オミクロン株」影響懸念のなかでのテーパリング実施
2021年11月末、南アフリカで新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染例が初めて報告されました。
オミクロン株は非常に感染力が強く、ワクチンの予防効果も低いことも示唆されており、各国の安全管理はもちろん、政治や経済にも大きな影響を及ぼすことが懸念されます。
アメリカにおいても、一時は大幅に緩和していた入国制限を再び厳格化。ようやく回復しつつあった旅行者数が再び減少したり、物流が停滞したりといった影響が出る見込みが高くなっています。
しかし、そんな状況下でも、米国経済はテーパリング(量的緩和の縮小)に踏み切らざるを得ない状況に追い込まれているようです。
テーパリングの背景にある、米国経済の歴史的インフレ
テーパリングに舵を切らざるを得ない大きな理由が急激なインフレ。現在、アメリカ経済は回復傾向にはありますが、そのインフレ率は歴史的な水準にまで達しています。
コロナ禍による不況脱却のために行った金融緩和の影響で、アメリカの消費者物価は1982年以来、実に約40年ぶりのペースで上昇。政府が金利を引き下げると、企業や個人がより簡単に有利な条件でお金を借りられるようになり、消費も増加。経済の循環が促進されます。
消費の増加はイコール物価上昇にもつながるわけですが、経済成長には物価上昇もともなうのが一般的なため、物価上昇率が緩やかなものであれば、大きな問題はありません。
しかし、現在のアメリカの物価上昇率はそうした範疇を超えており、企業や個人の収入の上昇よりも物価上昇のペースの方が著しいため、ほころびが起きている状態といえるでしょう。
ちなみに、この現象はアメリカに限った話ではなく、EU圏でも物価統計がはじまった1997年以来、最大の上昇率を記録しています。
オミクロン出現も政府の経済政策方針に大きな変更なし
こうしたインフレへの対策として、米国政府はテーパリングで対処する方針を以前から明らかにしていました。パンデミックが収束しつつある状況を踏まえ、金融緩和を縮小し、急激なインフレにブレーキをかける狙いがあったといえます。
そんな矢先に、出現したのがオミクロン株でした。 未知の変異株の登場により再びの景気悪化も懸念されるなか、このままテーパリングを進めていいものか、疑問の声も各所から当然上がりました。
しかし、FRB(連邦準備理事会、日本でいう日銀に相当)は当初の計画よりも前倒しする形で、テーパリングを進めることを発表。こうした判断に至った理由はいくつか推測できますが、もっとも有力な理由として、オミクロン株の登場がインフレをさらに加速する可能性があることが挙げられます。
現在、コロナ禍の影響で、サプライチェーンの混乱と商品不足が慢性化し、輸送費と製造費は上昇。しかし、オミクロン株に対する政府の対策方針次第では、工場閉鎖や物流制限、従業員の出勤停止といった措置が取られる可能性があり、そうなった場合に輸送費や製造費が、今以上に上昇することはほぼ間違いありません。
一方、過去の変異株に比べると、オミクロン株への人々の反応は幾分おだやかになるだろうという見通しもあります。以前のように国をあげての厳戒態勢になる可能性は低く、金融引き締めによる景気後退リスクは低いという想定のもと、テーパリング実施の決断がくだされた背景事情も推測できます。
総合的に考えると、オミクロン株の出現前後で、米国政府の経済政策方針に大きな変更はなかったと言えるでしょう。この判断が正しかったのかどうか、今後のインフレ率の変動に要注目です。