アメリカで「30年以上ぶりの大規模インフレ」発生中
インフレ発生の背景をまず見てみると、パンデミック下で買い物や行楽の我慢を強いられていた消費者が経済活動を再開し始めたことで需要が急激に増加。一方、今なお続く物流の不自由さと、雇い止めによる労働者不足によって物やサービスは不足しており、需要に対して供給が追いついておらず、需要と供給のバランスが大きく崩れた結果、急激なインフレが発生したというのが大枠の流れです。
次に、価格の上昇率が特に高い分野・モノは何かを見てみましょう。アメリカ合衆国労働省労働統計局(Bureau of Labor Statistics)の発表(※1)によると、価格上昇率がとりわけ高かったのがエネルギー分野で前年比で30.0%上昇。特にガソリンの価格上昇率はすさまじく、49.5%を記録しています。
そのほか上昇率が高いものでは、自動車レンタル費用が39.1%、中古車価格が26.4%、家具・寝具が12.0%など。スマートフォンは−20.7%、航空運賃−4.6%など、一部価格が下がったものもありますが、全体的にさまざまな分野での価格上昇が目立っています。
アメリカの急激なインフレが不動産分野にもたらす影響
では、このインフレが不動産分野にもたらした影響とはどのようなものでしょうか?
住宅不動産分野における価格上昇率は、購入費、家賃ともに3.5%の上昇で、数値的にはやや控えめなインフレ率となっています。
しかし、2020年以前から住宅の価格高騰が進んでいたところから、今回のインフレで住宅価格がさらに上昇したため、実感として数値以上の値上がりを感じている消費者も多いように思われます。とりわけ投資用不動産を所有している人で、日々のインカムゲインの増加や、キャピタルゲインの含み益が大きくなっているのを体感している人も多いのではないでしょうか。
投資家目線で見ると好ましい影響があったとしても、過度なインフレが続くと不況の深刻化にもつながりかねないため、政府はすでに対策を打ち始めています。所有する物件の売りどきを考えている人は、政府のインフレ対策の動向にも目を向けておく必要がありそうです。
投資家は気を抜かず、今後のインフレ動向に注視すべき
現在行われている主なインフレ対策として、アメリカにおける中央銀行制度の最高意思決定機関FRB(連邦準備制度理事会)が2021年11月から開始した“テーパリング”が挙げられます。中央銀行が債券を買い入れることで市場に資金を流通させて景気を刺激、量的緩和を段階的に縮小させていく試みです。
この試みがインフレ対策として有効な理由を簡単に説明すると、インフレは需要(買うお金)が供給(買われるモノ)より大きいときに発生するからで、そうした金余り状況が解消されれば、物価も落ち着いていくという理屈です。
とはいえ、市場に流す資金を減らすだけですでに市場にあふれている資金を回収できるわけではないため、しばらくの間は金余り状況は継続します。つまり「インフレ対策で物価が下がるから、保有している物件を急いで売らなければ!」と現状で慌てるのは、まだ早計であるということです。
むしろ、もうしばらくは価格上昇が続く可能性が高いため、不動産の売りどきを考えている方は、インフレ率の上昇幅を注視し、テーパリングの効果が見えてくるタイミングを予測することが重要だと言えるでしょう。
(※1)Bureau of Labor Statistics “Consumer Price Index-October 2021”2021-11-10
https://www.bls.gov/news.release/pdf/cpi.pdf