やや落ち着きを見せ始めた住宅価格の上昇傾向
新型コロナウイルスの影響による低金利政策や、ウッドショック(世界的な木材価格の高騰)を受けて、アメリカの住宅価格は上昇傾向が続いていました。その上昇スピードは前例がないほどで、一部ではバブルを指摘する声も上がっていました。
しかし、2021年7月ごろから、住宅価格の上昇傾向が緩やかになり始めています。アメリカの大手不動産ポータルサイトRealtor.comの最新データ(※1)によると、7月の全米の住宅価格の中央値は、前年同月比で+10.3%という結果に。このデータだけを見ると十分高い数字に見えますが、2021年6月の+12.7%と比べると成長率がやや鈍くなっていることがわかります。
さらに遡ると2021年5月は+15.2%、2021年4月は+17.2%の前年比を記録しており、3ヶ月連続で住宅価格の上昇率が失速していることが読み取れます。週ベースで見ても、50週連続で2桁%の上昇率が続いていたのが、7月最終週には8.9%と、ついに上昇率は1桁代に落ち着きました。
上昇の一途を辿っていた住宅価格ですが、ここにきてややその上昇率が鈍化し、落ち着きを見せ始めていることは以上のデータからも事実のようです。
今後、不動産価格が急激に下落する可能性は少ない?
住宅価格上昇が沈静化し始めた原因には、どのようなものが考えられるのでしょうか。多くの不動産業界関係者や経済評論家たちがさまざまな理由を考察していますが、代表的なのは以下のようなものです。
・木材の供給が再開され始めていること
・積極派がいち早く住宅の買い替えを済ませたため、市場に残っているのは慎重派な人が多いこと
・7月は低価格物件の売出しがたまたま多かったこと
・単なる季節的な要因
上記のように分析内容にはバラつきがあるものの、多くの人に共通しているのが「不動産価格がここから急激に下落することはそうないだろう」という見解です。
カリフォルニアのある不動産コンサルティング会社のCEOはニューヨークタイムズの記事の中で「多くの住宅価格が今後数ヵ月で調整されるだろう」と前置きを置きつつも、それは劇的な価格変動にはつながらないであろうことを強調しています(※2)。
またNAR(全米リアルター協会)のディレクターであるコロラトン氏はある記事のなかで「住宅価格がこの先大きく下がる可能性は低く、むしろ金利が上昇する可能性があるため、頭金が用意できるのであれば、現在の低い住宅ローン金利を活用するほうが賢い」という見解を述べています(※3)。
アメリカ不動産市場の状況はおそらくバブルでないが…
こうした専門家たちの見解を信じるなら、現在のアメリカ不動産市場の状況は「バブルではない」といえるでしょう。なぜなら上昇するだけしていきなりはじけるバブルのような動きではなく、上昇速度を緩めて軟着陸しようという動きが数字の推移から読み取れるからです。
とはいえ、安心しきってしまうのも考えものです。未来の不動産価格について断定的なことを言うのは占いのようなもの。数ヵ月や数年はいうまでもなく、数週間という単位でさえ何が起こるかわからないのが市場というものだからです。
市場の動きや住宅価格の変動に今後も注視する場合は、あくまでも「予想は予想にすぎない」という点に留意しながら見守る必要があるでしょう。
(※1)Realtor.com “Weekly Housing Trends View — Data Week August 14, 2021”
https://www.realtor.com/research/weekly-housing-trends-view-data-week-aug-14-2021/
(※2)The New York Times“Overheated Real Estate Market Begins to Cool” 2021-08-13
https://www.nytimes.com/2021/08/13/realestate/real-estate-prices.html?searchResultPosition=3
(※3)Red-hot housing market may cool a bit in the coming months(Zachary Halaschak