なぜ「レスキューホテル」はコロナ禍でも稼働率が高いのか?

2018年12月、栃木県真岡市に1号店を開業した宿泊特化型ロードサイドホテル「HOTEL R9 The Yard」。コロナ禍においても、昨年の客室稼働率は約78%(※1)を維持している。すでに全国41拠点を構えている。同時にメディアでも頻繁に取り上げられ「レスキューホテル」として認知度を高めている。
自然災害の猛威に晒されている日本。近年、大規模な災害(地震、台風、水害等)で、甚大な被害を引き起こしている。“被災したその日から、安全で快適な居住空間を提供する”…そんな課題に対して解決策を提供するのが株式会社デベロップが提唱する「レスキューホテル」というしくみです。
株式会社デベロップ営業部不動産事業統括、数野敏男氏が解説します。
(※1)2020年客室稼働率(2019年12月までに開業している店舗を対象)。

平時はビジネスホテル、有事は仮設宿泊所に変身

世界的な気候の変化は、過去にない規模の大雨や台風をたびたび発生させ、住み慣れた家や街で過ごすという私たちの暮らしの根幹を脅かすまでになっています。

 

「レスキューホテル」をご存じでしょうか。

 

株式会社デベロップの「レスキューホテル🄬」は、いうなれば「動く客室」。平時はビジネスホテル「HOTEL R9 The Yard」として運営される客室を、災害などの有事の際にすみやかに移設して地域の暮らしを守るという、公益性の高いビジネスモデルです。

 

どうしてそんなことが可能なのか——。それは、ホテルの客室がコンテナで作られているからです。

 

平時にはホテル不足解消の切り札のビジネスホテルとして活用、有事には客室を移設して仮設宿泊所として利用する。地域の暮らしの安心、安全に貢献することを目指している。
平時にはホテル不足解消のためビジネスホテルとして活用、有事には客室を移設して仮設宿泊所として利用します。地域の暮らしの安心、安全に貢献することを目指すビジネスです。

 

コンテナといっても、皆さんご存じの海上輸送用コンテナや貨物コンテナではありません。弊社が開発した建築確認申請対応型のコンテナです。コンテナモジュール1ユニットを独立した1棟・1客室(13㎡)として運営する、新しいタイプのホテルなのです。

 

一般的な仮設住宅との違いは、その斬新な外観だけではありません。最大のメリットは、最短期間で提供できること。東日本大震災の例を引くまでもなく、家を失った被災者に追い打ちをかけるのは避難所や仮設宿泊所での暮らしです。レスキューホテルならコンテナが到着したその日から使用することができます。

 

コンテナなので被災地や避難所の近くに簡単に移動・移設できます。プライバシーの心配はありません。また、室内のレイアウトは変更ができるので、仮設宿泊所のほか休憩所や診療所など多目的に活用することができます。

 

 

高まる認知度、全国41拠点、1370室を配備

株式会社デベロップについて簡単に紹介します。当社は2007年に、建築用コンテナモジュールの研究・開発・建築会社として創業しました。トランクルーム事業、不動産開発事業、エネルギー事業、子育て支援事業などを手がけつつ、現在はレスキューホテルというビジネスモデルに注力しています。

 

コンテナをホテルにするという発想は、東日本大震災での現場体験から生まれました。震災後間もない時期から、コンテナ型備蓄倉庫や復興従事者用宿泊施設の建設などで復興支援に携わる中で、避難所での被災者の快適な暮らしの提供に時間がかかることを強く感じました。

 

有事の際に被災地や避難所に迅速に駆けつけて、ホテル並みの快適な空間を供給できないものか――、これがレスキューホテル構想の原点です。

 

レスキューホテル第1号は、2018年12月、北関東自動車道真岡ICよりクルマで5分の所にオープンした「HOTEL R9 The Yard 真岡インター」(17室)。「The Yard(ザ・ヤード)」はレスキューホテルのブランドです。

 

災害対策の拡充を急ぐ自治体への認知度が高まり、後述する新型コロナウイルス対策の追い風を受け、レスキューホテルはその後、栃木、群馬、千葉、茨城、愛知、岡山、沖縄に続々と展開していきました。

 

2021年9月現在、レスキューホテルは全国に41拠点、1370室(開業準備中を含む)を数えます。

 

設備はビジネスホテル以上、平時の客室稼働率は8

平時はビジネスホテルとして利用されるレスキューホテルですが、当初から国内ビジネス客をターゲットとしています。しかもインターチェンジの近く、工業団地など産業集積エリアの周辺に出店する立地戦略です。コロナ禍でも工場の稼働は止まらないので、人の流れも止まりません。

 

また、通常のビジネスホテルのように100室1棟という出店ではなく、35室前後を基本とする地域の需要を考えた規模の最適化を図っています。さらに1部屋1部屋が離れて独立した個室タイプの客室は、昨年からのコロナ禍では、他のビジネスホテルにない非接触スタイルも利用者に評価されています。

 

例えば、東京オリンピック・パラリンピックやインバウンド目当ての宿泊施設とは全く別次元のビジネスモデルであると考えています。

 

もう一つの特徴は、コンテナの外観からはおよそ想像できない快適かつ上質な居住空間にあります。

 

「コンテナの中にいることをすっかり忘れてしまった」という宿泊者の声がすべてを物語ります。隣室の音はシャットアウト。プライバシーが守れるのは当然として、客室の設備には自信があります。

 

ベッドはシモンズ製、冷凍・冷蔵に分かれた中型の冷蔵庫、電子レンジ、空気清浄機を標準装備するなど、こだわりの設備は同価格帯(宿泊料5000円前後)のビジネスホテルをしのぎます。

 

通常のビジネスホテルよりワンランク上の設備を整ている。シモンズベッド、冷凍冷蔵庫、電子レンジ、空気清浄機、マッサージチェア等を完備。
通常のビジネスホテルよりワンランク上の設備を整えています。※マッサージチェアはダブルルームのみになります。

 

利用者の満足度はそのまま数字に表われています。昨年一年間の客室平均稼働率は約78%(※1)を記録。リピーターが多いため、コロナ禍の緊急事態宣言(第1回<2020年4月~5月>)発令中でも約73%(※1)で推移しました。利用者の中心はビジネス出張族、日中のテレワークとしての活用も増えています。

 

(※1)2020年客室平均稼働率(2019年12月までに開業している店舗を対象)。

 

数野敏男
株式会社デベロップ 営業部 不動産事業統括

 

株式会社デベロップ 営業部 不動産事業統括

慶應義塾大学卒業後、東京建物に入社 都市開発、ビル開発、住宅企画・販売に携わる。また子会社の代表取締役として、不動産業界向けITコンサル、デジタルマーケティング支援事業に従事。
その後、株式会社LIFULLにて、執行役員として不動産投資事業、分譲マンションの事業部長や子会社の代表取締役を兼任。楽天とのJV民泊事業会社の立上げ、クラウドファンディング、地方創生等の新規事業の立上げを行う。
近年は、TOB直後のマザーズ上場不動産会社の取締役COOとして、不動産再生、ホテル開発・運営事業を管掌しつつ、独立してITコンサル、地方創生、不動産再生、ホテル事業やコンサル事業に従事。
現在は、株式会社デベロップにて、次世代型建築として注目されている建築用コンテナモジュールを活用したホテル・住宅・店舗等の建築及び不動産投資商品の開発・企画・販売を担当。「レスキューホテル」仕入、開発、販売担当

【株式会社デベロップ】
2007年創業。トランクルーム事業、不動産開発事業、エネルギー事業、子育て支援事業を手掛けつつ、2017年よりホテル事業をスタート。「HOTEL R9 The Yard」をブランド名として、平時にはホテルとして運営される客室を、災害など有事の際に被災地などにすみやかに移設して地域の暮らしを守る、新しい公益のためのしくみであるレスキューホテルを拡大中。2021年9月現在、41拠点、1,370室を展開(開業準備中を含む)。68の自治体等がレスキューホテル出動要請のための協定を締結。年商約100億円(2019年度)、従業員数450名の規模で展開中。

著者紹介

連載デベロップ「レスキューホテル」が日本を元気にする

取材・構成/平尾 俊郎
※本インタビューは、2021年4月2日に収録したものです。

本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、著者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。

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