別荘といえば「余暇を過ごすところ」というイメージが強いが、日本でも有数の別荘地として知られる軽井沢では、所有の仕方に変化が生じている。本連載では、軽井沢 千ヶ滝別荘地の別荘オーナーに、今どきの別荘の持ち方、過ごし方などを伺っていく。第1回目は祖母の代から約70年にわたり別荘を所有しているオーナーに話を聞いた。

祖母の代から「軽井沢」は所縁の深い場所だった

今回お話を伺った神奈川県出身の酒井聡子さんは、現在、フランス人男性と結婚し、15年前からパリに暮らしている。仕事の関係上、月に一度は日本に帰国しているが、その際の拠点としているのが軽井沢だ。

 

日本にも生活の拠点を…と考えたときに、東京にマンションを買うのではなく、「軽井沢に家を建てる」という選択をした経緯は何だろうか。

 

「軽井沢に祖母の別荘がありました。だから幼いころは、夏休みは軽井沢で過ごすのが恒例だったんです。祖母は生前、土地の一部を贈与してくれました。そこで私が子どものころそうだったように、自分の子どもにも軽井沢で伸び伸び過ごしてほしいと思って、家を建てることにしたんです。

 

また、日本に帰るたび実家の世話になっていたので、日本にも家族の拠点になるような場所がほしいとも考えていたんですよね。軽井沢は東京からも1時間ほどなので、その点でも申し分ありません。軽井沢に家を建てることは、自然な流れでした」

 

酒井さんにとって軽井沢の家は、別荘ではなく「日本での拠点」。位置するのは軽井沢 千ヶ滝別荘地西区エリアだ。酒井さんの祖母は学生時代に軽井沢を訪れた際、気候や自然の美しさに感動し、「いつか、ここに別荘を建てる」と心に決めたそうだ。今から80年近くも前の話である。

 

「祖母が別荘を建てたころ、千ヶ滝別荘地の物件の数はそれほど多くなかったようです。都会とは違うコミュニティを求めていた祖母は、ほどよい距離感を保てる広々としたこの別荘地を選んだそうです。別荘地らしい、ゆったりとした雰囲気、軽井沢のなかでもカラッとした気候も気に入ったポイントで、当時は目の前に、牧場が広がっている土地だったんだそうですよ」

 

軽井沢 千ヶ滝別荘地。1918年から開発が始まり、日本有数の別荘地として成長を遂げた
軽井沢 千ヶ滝別荘地。1918年から開発が始まり、日本有数の別荘地として成長を遂げた

 

広い家よりも「人が集まれる空間」を重視

祖母から軽井沢の土地を譲り受けた酒井さんは、モダンな一邸の建設に着手した。設計は軽井沢の別荘建築を専門に行う、東京の建築家に依頼した。

 

「お会いしたところ、すごく話が合い、この方に家を作ってもらいたいと思いました。私は普段はフランスにいて、建築の様子を頻繁に確認することは難しかったのですが、信頼できる方だったので、実際の距離ほどは大変ではありませんでした。

 

家は、“本物の素材”を使うことにこだわりました。モダンな造りのなかにも、自然と木が使われていて、どこか温もりと和のエッセンスを感じられるような……。依頼した建築家の方は、石やガラスといった素材と木材を組み合わせるのが、すごく上手なんです。結果、内装はどこか男性的で、力強いデザインになりました。その仕上がりは素晴らしく、主人も大変感激していましたね」

 

内部は2階建てとなっているが、2階部分には寝室がひとつ備えられているだけ。他の多くのスペースは、大きなリビングと吹き抜け空間に充てられている。

 

「人が集まれる家にしたい、という思いがあり、家族やお客様が集うリビングは、ゆったりとくつろげる空間にしました。掘りごたつのような形状にして、思い思いに腰を掛けることができる設計にしたのも、そのような思いからです。

 

私が小さかったころ、毎年訪れていた軽井沢では、人の行き来がとても盛んでした。毎日誰かが気軽に遊びに来て、楽しく交流していた記憶があるんですよ。だから自分の家を作る際にも、ゆったりと過ごせるリビングが中心にあったんです」

 

軽井沢に滞在中、ホームパーティを開催したり、ふらっと友人が遊びにきてお茶をしたりと、来客のない日のほうが珍しいという。訪ねてくるのは、旧友はもちろん、新たに軽井沢で知り合った友人など、さまざま。子どもたちも軽井沢に同年代の友人ができ、豊かな自然のなかで遊びまわっている。その交友から親同士の新たな出会いが生まれることも多いそうだ。

 

別荘地として成熟する過程で、多くの欧米人が関わってきた歴史を持つエリアならではの社交スタイルが、軽井沢にはある。

 

右上:穏やかな日は、屋外で食事を楽しむことも 右下:豊かな環境のなかで、遊ぶ子どもたち 左:思い思いに腰を下ろしくつろげる、こだわりのリビング
右上:穏やかな日は、屋外で食事を楽しむことも 右下:豊かな環境のなかで、遊ぶ子どもたち 左:思い思いに腰を下ろしくつろげる、こだわりのリビング

 

新たに土地を購入し、軽井沢でビジネスを展開

パリと軽井沢に拠点を持ちながら、アクティブな毎日を送る酒井さん。

 

そんな酒井さんにとって軽井沢は、ビジネスの拠点にもなった。昨年「食・空間・暮らしを体験する家」として、『La Maison Karuizawa』をオープンさせたのだ。

 

「食、宿泊、そしてイベントを3本の柱にした複合施設で、フランス人が大切にしている、自然、歴史との共存や美意識を感じていただける場所を目指しています。フランスには、『アール・ド・ヴィーヴル(人生の粋)』という言葉があり、私にとっては人と食卓を囲み、対話を通じて人と繋がる時間。フランスとどこか環境が似ている軽井沢で、自然と隣り合わせの時間から、なにげない営みの心地よさを感じてほしいと思っています。

 

施設は一軒家の一棟貸しで、長期滞在が可能なヴィラとなっていて、内部の一角に、私が日本に訪れたときだけオープンするカウンターバーを設けています。そちらで対話(おしゃべり)の脇役になるような気軽なフランス家庭惣菜とゆったりとした時間を楽しんでいただけます。

 

2019年の9月に開業したばかりで、まだソフトオープンの段階なのですが、今後は私の知人だけでなく、一般の方にも利用していただきたいです」

 

民泊ではなく、きちんと旅館業の認可を受けたうえでの開業を目指した。物件選びは難航したが、旧軽井沢の好ロケーションにある物件と巡り合った。

 

幼いころから軽井沢に親しみ、海外へ拠点を移しながらも、また軽井沢に引き寄せられた酒井さん。軽井沢を生活の拠点・ビジネスの拠点として、自らがかかわりを深めながら、新しい価値観を吹き込んでいく。

 

《軽井沢・別荘の買い方① 所有権で購入する方法》

軽井沢 千ヶ滝別荘地の土地の権利形態には、土地を所有する「所有権」と、土地を借りる「借地権」があります。

 

軽井沢 千ヶ滝別荘地の別荘を所有権で購入する場合、土地のみであれば300坪で2,000万円くらいから、というのがひとつの目安になります。そこに上物の建築費用を約3,000万円として、初期費用は5,000万円ほどと考えておくといいでしょう。

株式会社西武プロパティーズ販売事業部企画・管理担当(リゾート企画)会沢昌之氏)

軽井沢 千ヶ滝別荘地の西端、浅間山を眼前に望む「新からまつの森」エリア
軽井沢 千ヶ滝別荘地の西端、浅間山を眼前に望む「新からまつの森」エリア

 

取材・文/西本不律
※本インタビューは、2020年2月7日に収録したものです。
※所属は2020年2月7日の収録時点のものです。
※2022年4月1日付で、株式会社西武プロパティーズは、株式会社西武リアルティソリューションズへ商号を変更しました。