独立・開業には様々な選択肢があるが、地域や社会に貢献できる事業として人気を博すのが「塾経営」である。親たちの教育熱は依然として高く、駅前や街中にはたくさんの学習塾が存在し、そこに通う子どもたちの姿を目にすることも多い。一方で少子化が進み、業界の衰退が始まっていることも事実である。厳しさ増す環境のなか、学習塾経営はこの先もビジネスとして魅力的なのだろうか。そして今後も勝ち続けるには、何が必要なのだろうか。関西を中心に学習塾を展開する、株式会社成学社FC事業部FC運営課長の小林大輔氏にお話を伺った。

学齢人口減少で、岐路に立つ「学習塾経営」

学習塾が本格的に産業化してから約50年が経ち、業界は今、衰退期に突入している。その大きな要因の一つが、少子化による学齢人口自体の減少だ。18歳人口は現在約117万人いるといわれているが、2030年頃には100万人を切ると予想されている。大学受験バブルともいわれた団塊ジュニア世代(第2次ベビーブームに生まれた世代)が18歳だった1992年の205万人と比較すると、その半分以下になってしまうのだ。学習塾マーケットの最大値が学齢人口だと考えると、決して良い社会環境とはいえないだろう。

 

18歳人口の推移(出所:文部科学省作成資料を基に作成)
18歳人口の推移(出所:文部科学省作成資料を基に作成)

 

少子化に伴い、これまでも学齢人口は徐々に減少してきたが、大学進学率の上昇で学習塾市場全体の落ち込みはカバーされてきた。しかし、大学に進学することが一般的となり、進学率もほぼ頭打ちとなった今、業界としては、これから先数年間で急激なマーケットの縮小が予想されている。

 

そのような社会環境のなかでも、「学習塾に通う子どもの比率、そして人数は、確実に増えていくと考えています」と話すのは、株式会社成学社のFC事業部FC運営課長の小林大輔氏だ。この10年ほどで比べると学齢人口は減少が続いているが、学習塾を利用する人数は変わらないどころか若干増加しており、その傾向は、しばらく続くと予想しているという。

 

その背景には、何があるのだろうか。理由の一つには、大学入試改革や新学習指導要領など、教育環境の変化がある。たとえば、センター試験に代わって2021年より実施される「大学入学共通テスト」では、「知識・技能」だけでなく、「思考力・判断力・表現力」を一層重視するという考え方が取り入れられる。現行のセンター試験は、すべてマークシート式で実施されているが、一部で記述式問題が導入される予定だ。

 

また英語の試験では、従来要求されていたリーディングとリスニングの2技能に加え、ライティングとスピーキングの4技能が必要となる。さらには、民間資格・検定試験の受検が求められるケースも出てくるなど、これまで以上に多面的・総合的に能力を評価する入試への転換が掲げられている。

 

新学習指導要領では、英語やプログラミング、ロボット教室、理科実験、自然体験、学童など、教育や学習の内容が大きく変化している。つまり学習塾にも、これまで以上に様々なことが求められるようになってきているのだ。

 

「受験のときだけ塾に通うという時代は終わり、これからは受験に関係なく塾に通うという時代が来ます。その結果、今後はさらに通塾率は上がると予想しています」(小林氏)

現在主流となっている「個別指導」スタイルの学習塾

今、40代以上の方々が持っている学習塾のイメージとは、どのようなものだろう。それは学校の授業のように、一人の講師が多くの生徒に対して一斉に授業を行う「集団指導」の学習塾ではないだろうか。実際に、学習塾が産業化された1960年代の後半から1980年代までの学習塾は集団指導スタイルが主流で、大学受験を控えた高校3年生の時期に、そのような塾や予備校に通っていたという人も少なくないだろう。

 

株式会社成学社FC事業部FC運営課長小林大輔氏
株式会社成学社FC事業部FC運営課長 小林大輔氏

「以前は数十人、時には100人以上の生徒を対象に集団指導をするようなスタイルが多かったですね。しかし現在は、一人ひとりの子どものレベルに合わせて丁寧に指導が行え、利便性も高い個別指導の塾が主流になってきています」(小林氏)

 

この流れの理由の一つには、子どもに対する保護者の考え方の変化があると小林氏は語る。

 

「15年ほど前から、特に第2次ベビーブーム世代以降の保護者が、『みんなが行くからうちの子も行かせる』というのではなく、『うちの子の性格だと、こういうところが向いている』と考える時代になりました」(小林氏)

 

もう一つの理由に、生活スタイルや価値観の多様化によるニーズの変化があげられる。学力レベルや学習目標のほか、学校行事や部活動、習い事などによる時間の制約は、生徒一人ひとり、当然ながら異なる。

 

以前のような集団指導の学習塾であれば、自分の学力レベルや目標に合った塾を探して、生徒が塾に合わせてスケジュールを立てていた。なかには両立が難しく、塾に通うことを断念するしかない子どももいただろう。それに対して個別指導の学習塾であれば、学習レベルや内容、スケジュールを塾が生徒に合わせてくれるから、両立が容易だ。いま学習塾には、利便性の良さも求められるようになっているのだ

 

加えて、「学習障害や引きこもりという問題に苦しむご家庭も増えています。そういう子どもたちの受け皿として、個別指導が支持されているという面もあります」と小林氏。

 

またビジネスという側面から見ても、学習塾の収益構造は変化しているという。以前は、生徒一人あたりの単価は安く、たくさんの生徒を一緒に指導することで利益を出してきた。しかし、個別指導であれば単価を高く設定でき、少人数、小スペースである程度の利益を出せるのだ。少子化といわれながらも、街中に個別指導の学習塾が増加しているのは、このような背景があるからだ。

 

「しかし、これから先は学習塾業界も淘汰が始まり、生き残りをかけた勝負になってくるでしょう」(小林氏)

 

次回は、学習塾における個別指導の実態について、迫ってみよう。

 

取材・文/関根昭彦 撮影(人物)/関根明生
※本インタビューは、2019年7月25日に収録したものです。