築14年でも家賃を上げられる。その理由は?
日本の建物には「経年劣化」、つまり年を経るごとに価値が目減りしていくという認識が根強くある。アパート経営においても、築古物件は入居者から敬遠される傾向があり、経年劣化によって空室リスクや家賃の下落リスクは高まっていく。
しかし一方で、経年とともに魅力を増す賃貸物件というものも、稀に存在する。こうした、時とともに新たな価値を創造する「経年優化」というコンセプトを提唱しているのが、三井ホームだ。
伊藤氏「私たちが手掛けた賃貸物件のなかには、築14年で家賃が下がるどころか、逆に上がったというケースもあります。それはひとえにオーナーの経営努力によるものですが、『経年優化』を見越した企画当初のコンセプトも、その一助になっているのではないかと思います」
当該の物件は東京都市部の緑豊かな立地。最寄駅は急行電車は停車せず、その駅から徒歩13分と、アクセス面で特に有利なロケーションとはいえないが、その景観を生かすべく、入念なプランニングを行ったという。
島﨑氏「もともとは畑だった、広大な土地です。最も安くて効率がいいのは、アパートをなるべく多く機械的に並べるやり方ですが、それでは他との差別化が図れません。そこで、全棟メゾネットタイプ、それも敷地いっぱいにギチギチにつくらず、すべての建物を南側に置いて角部屋になるような提案をしました。建物自体もすべて同じではなく戸々ごとのフリープランとし、外構計画も含めて立地に合わせたものにしています。街並みとの調和を意識し、時間とともに汚くなっていく建物ではなく、逆に味になっていくような物件ですね」
[図表]「経年優化」物件事例1
建設当初から比べて、周辺の宅地化は進みファミリー層の需要が増えたことで、問合せも増えた。しかし最寄り駅周辺が大きく発展したわけでもなく、当該物件の立地が特別恵まれているわけでもないが、入居希望者はあとを絶たないという。
「経年優化」が賃貸物件を「マイホーム」に変える
それなりの住居ニーズがある地域で、かつ、新築であれば満室にすることはさほど難しくはない。問題は以後、20年間、30年間にわたってその状態をキープできるかどうか。住まうごとに魅力を増す物件であれば、同じ入居者に長く住んでもらうことができ、空室リスクや家賃下落リスクも低下する。
島﨑氏「前述の築14年の物件は、当初の入居世帯の半分が今も住み続けています。一般的なファミリー向け物件は、住宅を購入するまでのつなぎとして短期で退去されるケースも珍しくありませんが、賃貸物件でも快適であれば“マイホーム”と同じ感覚で住んでいただけるのではないでしょうか」
同時期に入居したファミリーはその子供たちも共に成長し、世帯同士の結びつきも強まっていく。そうしたコミュニティの成熟も、「経年優化」がもたらす効能の一つといえそうだ。
依田氏「加えて、植栽や壁の塗替えなど、手入れを行き届かせることで、物件自体が街の景観に馴染んできたことも大きいと思います。新築には新築のよさがありますが、街の景観に合った美しさを醸し出していくということも、経年優化の一つであると考えています」
ただ建物を建てるのではなく、「街並みをつくる」という意識が、経年優化の根底にある。その哲学が実を結び、三井ホームグループの賃貸物件の全国空室率は3.3%、東京に絞れば約2%と非常に低い。空室率に関しては様々な調査があり一概にいえないが、おおむね東京都の場合10~15%と発表していることが多い。この結果からも、いかに三井ホームグループの賃貸物件の空室率が低いかがわかるだろう。
今後、人口が減少し住居需要も縮小していく日本にあっては、従来の賃貸経営の在り方そのものを見直す必要がある。目先の利回りだけを追求し、効率だけを重視した計画では後々無理が生じてくるのは明白だ。これからは「経年優化」のように、長く愛されるための骨太なプランニングが求められている。
[図表]「経年優化」物件事例2