近年の、いわゆる下請法関連の改正により、下請事業者の生産性改善と賃上げに向けて、親事業者側の協力が強く求められている。多くの場合、親事業者は支払サイトを短縮する必要があり、キャッシュフローの改善が欠かせない。そうした中、現金を回収するまでの日数である「キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)」の重要性が注目されている。本連載では、財務戦略におけるCCCの重要性と改善のポイント等について、一橋大学大学院の野間幹晴准教授とTranzaxの小倉隆志社長が解説する。第5回は下請法対象企業と取引する際のキャッシュフロー対策についてである。

親事業者の資金繰りが厳しくなる理由

Tranzax株式会社 代表取締役社長 
小倉隆志 氏
Tranzax株式会社 代表取締役社長 小倉隆志 氏

小倉 サプライチェーン全体のキャッシュコンバージョンサイクル(以下CCC)をマネジメントするという点では、下請法の対象となる中小零細企業と取り引きしている親事業者はいま、待ったなしの対応を求められています。サプライヤーが大企業ばかりの企業にとって、下請法はほとんど関係ありません。

 

問題は、中小企業や零細企業に発注している大企業です。自動車業界であれば、トヨタの1次下請はほとんど下請法対象企業ではない大企業なので影響はほとんどありません。しかし、資本金が3億円以上の1次下請、2次下請企業は下請法で保護されませんので、自社の売上サイトは長いまま、自社の下請企業へは早期の支払いを求められることになります。そのため、資金繰りが厳しくなるので、なんらかの対策を講じなければなりません。

 

野間 おっしゃる通り、下請法改正の影響を受ける親事業者企業は、支払期間が短くなるので仕入債務回転日数が短くなります。それに合わせて、売上債権回転日数も短くしないと、CCCが伸びることになります。資金繰りが厳しくなって銀行からの借入などの手当てが必要になりかねません。

 

バランスシートでは、買掛金が小さくなると、借入金が増えることになります。それを避けるには、売上債権を圧縮する必要があります。

 

CCCの改善=バランスシート全体の改善

小倉 ぜひ考えてもらいたいのは、受け身の姿勢で仕方なく対応するのではなく、むしろこうした環境変化をチャンスととらえ、CCCの改善に戦略的に取り組むことです。売上債権を圧縮するには、電子記録債権を活用した一括ファクタリングや当社の「サプライチェーン・ファイナンス」が役に立ちます。

 

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科
准教授 野間幹晴 氏
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科
准教授 野間幹晴 氏

野間 仕入債務回転日数が短くなる分だけ、売上債権回転日数も短くできれば、運転資本が圧縮され、バランスシート全体が改善します。CCCの改善に取り組むことは、バランスシート経営の実践につながります。

 

小倉 今、日本は超低金利が続いており、多くの企業はあまり財務戦略を真剣に考えなくなっているような気がします。しかし、この超低金利は日本企業にとっては非常に大きなアドバンテージです。これを利用して新しい財務戦略を考えたり、国際競争力につなげるきっかけとしてほしいですね。

 

[図表] CCCの改善とバランスシートの関係

 

取材・文/古井一匡 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2017年12月18日に収録したものです。

企業のためのフィンテック入門

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小倉 隆志

幻冬舎メディアコンサルティング

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