サプライヤーとの共存共栄を実現している企業の事例
野間 キャッシュコンバージョンサイクル(以下CCC)は企業単位で考えるだけでなく、サプライチェーン全体で見ることも重要です。自社のCCCを短くすることばかり優先し、取引先のCCCが長くなることを放置していると、重要な取引先が弱体化したり離れていくということにもなりかねません。
小倉 日本の場合、その点については下請事業者との取引条件の改善を国が強く求めています。
野間 サプライヤーとの共存共栄という視点からCCCを考えている企業の例として、ここでは衣類や小物のセレクトショップを運営しているユナイテッドアローズを取り上げたいと思います。
ユナイテッドアローズの棚卸資産回転日数は比較的長く、120日ほどです。なぜなら、季節が変わると新商品を入荷しシーズンのピークまで保有し、売れ残った場合はアウトレットに回すので、平均4か月分の在庫を持たざるを得ない。
一方、同社のサプライヤーは企業規模の小さいイタリアなどのブランドメーカーが多く、トヨタのジャストインタイムとは反対に、サプライヤーが商品をつくったら、なるべく早く仕入れて、早く代金を支払っています。同社の競争力の源泉は、優れたサプライヤーから優れた商品をいかに早く仕入れるかにあるからです。
CCCをサプライチェーン全体で見る重要性
小倉 自社のCCCをただ短くすればいいのではなく、サプライチェーン全体のCCCをマネジメントすることが重要なわけですね。
野間 同じファッション関連企業であるファーストリテイリングの棚卸資産回転率は20日前後とはるかに短くなっています。ファーストリテイリングの場合、そもそもユナイテッドアローズとはビジネスモデルも経営戦略も異なっており、単純に棚卸資産回転日数だけ比較してみても意味がありません。
むしろ、ユナイテッドアローズはサプライチェーンの全体のCCCを考慮して、自社の競争優位をいかにつくるかに腐心しています。CCCはどうあるべきか、どうすることで自社の競争優位につながるかという戦略的な発想をしている点が、ユナイテッドアローズの特徴だと思います。