誰でも成功できるものではない、日本での不動産投資
――オープンハウスのキャッチフレーズといえば「東京に、家を持とう。」です。それなのに、なぜ今、アメリカ不動産投資の書籍を執筆したのでしょうか?
井上 おっしゃるとおり、オープンハウスは首都圏を中心に新築戸建住宅を販売している企業です。私自身も国内の大手マンションデベロッパーなどを経て、転職してきました。前職等では、不動産のバブル絶頂と崩壊を経験し、当時は不動産投資によって人生が様変わりしてしまったお客様を何人も見てきました。
そんなバブルの後遺症から脱したと思ったら、今度はアメリカ発のサブプライムショックです。バブル崩壊のときほど日本の不動産市況が急激に悪化することはありませんでしたが、世界的な金融不安によってファイナンス面で厳しい扱いを受ける個人や企業を目の当たりしました。つまり、私は不動産業界に身を置きながら、不動産投資に対しては、「誰でも成功できるものではない」と思わざるを得ない体験をいくつもしてきたのです。
――それが本書執筆のきっかけですか?
井上 海外に目を向けるきっかけにはなりましたね。ただ、マイホームであれば、日本の不動産市況など気にする必要はありません。リターンを目的とした投資ではないからです。
しかし、今なお増え続けているサラリーマン大家さんたちを見ていると、心配になってしまうのです。銀行は気軽にフルローンを出して、アパート・マンション投資を後押ししますが、年収の数十倍の借金を抱えて投資に失敗すれば取り返しがつきません。日本は低金利で資金調達できる環境が整っていますが、不動産価格の上昇は簡単には望めません。新築物件はなおさらで、人が住んだ途端に中古物件となり、時間とともに資産価値が減少していくからです。
仮に、借入れを起こして運用している賃貸マンションで想定通りの家賃収入が得られず、銀行への返済が滞ったとしましょう。最終的には融資対象の物件を手放せばいいと思うでしょうが、思ったような価格ではとても売れず、残債が発生するケースも多いです。
「ドル」で資産を持つこと自体、大きなメリットに
――マイホームの購入はともかく、日本の不動産投資でリターンを得るのは簡単ではないと?
井上 簡単ではありません。低金利の融資を利用して自己資金よりも大きな投資をする「レバレッジ」という劇薬が浸透したことで不動産投資は過熱し、今の日本の不動産市場は完全に“レッドオーシャン”となっています。都心部では適切な「目利き」ができないと、安定的なリターンの得られる投資用物件を探し出すのは難しい状況です。
かといって、せっせと預貯金に励めばいいというものでもありません。今の日本は将来に対する過度な悲観論がデフレマインドを助長し、本来あるべき経済の成長を押しとどめているように感じています。投資と消費の停滞がデフレを一掃加速させ、自分たちの首を絞めているのではないでしょうか。
――お金を寝かせていては、それもまた損につながる?
井上 低金利時代だからこそ、“お金に働いてもらう”のが効率的なのです。その運用先として私が目をつけたのがアメリカの不動産でした。日本と異なり、中古物件であっても値上がりが続いています。移民政策によって安定的に人口が増加しており、経済成長が続いているから、不動産に対する需要が右肩上がりで伸びているのです。おまけに、不動産取引の透明性は日本よりもはるかに高く、税効果が見込める場合もあります。
何より、世界の基軸通貨であるドル建ての資産を持つことそのものにメリットがあります。円建ての資産にドル建て資産を加えることで、リスク分散を図ることが可能になるのです。日本とは比較にならないほど魅力的なアメリカ不動産市場に目を向けてほしい――その一心で筆を取りました。