前回に引き続き、親会社からの出向役員に対する「給与・賞与の処理」で陥りやすいミスを紹介します。今回は、課税関係について詳しく見ていきましょう。※本連載では、税務調査の現場実務に精通し、国際税務コンサルタント事務所の所長として活躍する渡邊崇甫氏の著書、『業種別 税務調査のポイントー国税調査官の視点とアドバイスー』(新日本法規出版)より一部を抜粋し、税務調査の基礎知識や税務処理で誤りやすいポイントなどを解説します。

届出書を税務署に提出していれば・・・

前回の続きです。

 

(1)月額給与に係る「給与負担金」

 

毎月(1か月以下の一定の期間ごと)に同額50万円が支給されていることから、法人税法34条1項1号の「定期同額給与」に該当し、損金の額に算入されます。

 

(2)賞与に係る「給与負担金」

 

あらかじめ所定の時期(6月及び12月)に確定額(100万円)を負担することを出向契約及び株主総会で決めていたため、所定の届出書(事前確定届出給与に関する届出書)を税務署に提出していれば、事前確定届出給与として損金算入が認められることになりましたが(法法34①二)、その手続をしていないため損金の額に算入することはできません。

 

なお、「事前確定届出給与に関する届出書」は、次の期日までに提出する必要があります(法令69③)。

 

①原則:事前確定届出給与に関する株主総会等の決議を行った日から1か月を経過する日まで。ただし、遅くとも事業年度開始の日から4か月を経過する日まで。

 

②新設法人の場合:設立の日以後2か月を経過する日まで。

 

③臨時改定事由(役員の職制上の地位の変更、職務の内容の重大な変更等)があった場合:次のいずれか遅い日まで。

 

㋐①の期日(②に該当する場合は②の期日)

㋑臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日

手続きひとつの違いで大きな差が生じるケースも

<advice>

 

関係会社間で社員が出向するのは珍しいことではありません。親会社の使用人が子会社の役員として出向するのもよくあるケースです。

 

その場合には、原則として子会社が負担する当該出向役員の給与負担金は、損金の額に算入されないということを認識すべきでしょう。

 

ただし、①出向先法人において当該出向役員の「給与負担金」につき、役員給与として負担する旨を株主総会等で決議し、かつ、②出向契約等であらかじめ「出向期間」及び「給与負担金」の額を定めている場合には、当該「給与負担金」は役員給与として法令に照らして損金算入の可否を判定できることになりますので、これらの事前準備が必要となります。

 

本事例では、所定の届出さえすれば、事前確定届出給与に該当し、損金算入が認められた賞与に係る負担金が、それを失念したため損金不算入になってしまいました。

 

自社の役員に係る給与であれば意識が行き届くようですが、出向役員に関してはなぜか手続を失念してしまうケースがよくあります。手続ひとつで大きな税額の差が生じる結果となりますので注意が必要です。

業種別 税務調査のポイント ー国税調査官の視点とアドバイスー

業種別 税務調査のポイント ー国税調査官の視点とアドバイスー

渡邊 崇甫

新日本法規出版

これ一冊で、税務調査官の着眼点がわかる! ◆税務処理で誤りに陥りやすいポイントを業種別に明らかにし、税務調査での問題点を解説しています。 ◆是認・否認の判断について、「税務調査官ならでは」の視点で解説し、適…

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