前回に引き続き、交通事故による「高次脳機能障害の認定」の矛盾と問題点を見ていきましょう。今回は、医学界の反応も併せて紹介します。

医学界は30年前から高次脳機能障害の存在を指摘

前回の続きである。

 

ところが我が国の交通事故賠償の世界では、高次脳機能障害の存在を長らく認めてこなかったのである。とはいえリハビリの現場においては、このような症状があることが早くから問題にされていた。

 

1983年のリハビリの専門誌において初めて「高次脳機能障害」という用語が使われている。つまり医学の分野では30年前からその存在が指摘されていたのである。それにもかかわらず、交通事故賠償の分野では長らく無視されてきたのだ。

 

自賠責保険で認められたのは、臨床現場で認知されてからずっと後の2001年になってからである。運輸省からの通達があって、ようやく重い腰を上げたのである。すなわち自賠責においては、高次脳機能障害は「神経系統の機能または精神障害」の系列の中でその症状に応じて1級から9級の間で認定されることになったのだ。

画像所見がある場合にのみ障害が認められることに…

ただし、問題は同障害を認める要件として、事故後の意識障害の有無やこん睡状態の有無だけでなく、器質的損傷、すなわちMRIやCTによる画像所見がある場合に限るとしたことだ。

 

ムチ打ち症の場合も同じだが、どうも自賠責の認定は画像所見があるかないかに強くこだわる。ただし、医学の領域では脳損傷において器質的損傷が明らかでない場合でも、症状が出ることがすでに常識になっているのである。

 

2006年6月、国土交通省の「今後の自動車損害賠償保障制度の在り方に係る懇談会」において、現在の認定システム(MRIやCTの画像所見および受傷直後の意識障害を要求すること)では取りこぼしてしまう高次脳機能障害者が存在するのではないかと指摘された。

 

そして高次脳機能障害認定システムの現状を見直し、一層の被害者保護を図るべきとの指摘を受けたのである。

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