生き方が多様化する現代。結婚が当たり前だったころと比べて、生涯独身や事実婚といった選択肢もさほど珍しいものではなくなりました。しかし、事実婚カップルのなかには、パートナーの死後、自分たちの選んだこととはいえ、大きな後悔が残ったという人も少なくありません。本記事では、FP1級の川淵ゆかり氏が、Aさんの事例とともに、パートナーに先立たれた事実婚カップルのお金の事情について解説します。
7年間同居も…年収350万円の42歳内縁妻、夫の死後にパートナーの家族から放たれた残酷なひと言「頭が真っ白になりました」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

バツイチ同士の事実婚カップルを襲った悲劇

従来の入籍婚でなく、事実婚を選択するカップルも増えています。仕事をしていて姓を変えたくない人や個人の事情などで入籍をデメリットと感じる人も多いようです。なかには「もし、別れることになったとしても面倒がない」といった理由の人もいます。

 

都内の企業に勤める42歳のAさんもその1人です。パートナーである、同い年で別の会社に勤める会社員の男性とは同居を始めて7年目。しかし、お互いに離婚歴があることで入籍までは踏み切れず、事実婚の状態を続けていました。そうはいっても、お互いの友人や両親に紹介したり、会社のイベントに2人で参加したりと、入籍婚の夫婦と同じように暮らしていました。

 

そのようななか、突然パートナーの男性が死亡してしまいます。Aさんは会社員として働いているとはいえ、年収も350万円と、それほど高いとはいえず、40歳を過ぎたタイミングで1人になる今後の生活に大きな不安を感じだします。

事実婚のパートナーを「死亡保険の受取人」にできるのか?

Aさん達はまだ年齢的にも若いということもあり、お互いに死亡保険のことなど考えてはいませんでした。では、事実婚の場合、相手を受取人として死亡保険に加入することはできるのでしょうか? 

 

答えは、「制限が付くが加入できる」です。重要なのは戸籍上の配偶者がいないことです。

 

たとえば、妻との離婚が成立せずに別居して、ほかの女性とどんなに長期間同居していたとしても、この同居女性を受取人として死亡保険に加入することはできません。加入の際は、戸籍謄本を提出して戸籍上の配偶者がいないことを証明しなければいけません。保険会社によって条件は違いますが、同居期間等により加入が認められることになります。

 

同居を証明するために住民票を提出することで同居期間を証明したり、場合によっては保険会社からの訪問で同居が確認されたり、ヒアリングがあったりもします。審査結果により、加入が認められなかったり保険金額に制限が設けられたりするケースもあります。

住む家がなくなる!? 追い出されたAさん

さて、Aさん達が住んでいたのは、亡くなったパートナーが8年前(2人が同居する前)に購入した都内の中古マンションです。名義も住宅ローンの支払いもすべてパートナーが行っていました。住宅ローンはまだまだ残っていましたが、団体信用生命保険によりローンの残債はゼロとなりました。

 

しかし、葬儀も終わって落ち着いたころ、亡くなったパートナーの弟が押しかけてきて「Aさんは相続人ではないのだから、直ちに新しい住まいを見つけて出ていってくれ!」と言います。Aさんは頭が真っ白になりました。

 

Aさんからするとひどいことを言う弟さんですが、実は言っていることに間違いはありません。婚姻関係がなければ相続権はありません。配偶者は常に相続人となりますが、内縁の配偶者は相続人にはなれないのです。なお、配偶者以外の相続人には順位があります。

 

【第1順位】子ども(直系卑属)

亡くなった人に子どもがいれば、子どもが相続人になります。養子や認知した子どもも対象となります。

 

【第2順位】親(直系尊属)

亡くなった人に子ども(孫・ひ孫)がいなければ、相続人になるのは親になります。養親も対象となります。

 

【第3順位】兄弟姉妹

子どもがおらず、両親や祖父母も亡くなっていれば、亡くなった人の兄弟姉妹が相続人となります。兄弟姉妹がすでに死亡している場合はその子(甥・姪)が対象となります。

 

Aさんは法定相続人にはならないため、亡くなったパートナーの相続財産はご両親が相続することになります。

 

弟さんは相続人ではありませんが、高齢のご両親の代わりにAさんに伝えに来たのでしょう。Aさんは弟さんと話すのは初めてですが、以前にご両親へ紹介され、優しくされたこともあったこともあり、「やはり籍を入れて正式な妻にならないとダメなのか……」と激しいショックを受けます。

 

事実婚の場合、相手に財産を残したい場合は、死亡保険の加入や遺言書を作成するといったことを事前に行っておく必要があります。