元卓球女子メダリストである福原愛さんへの「子の引き渡し命令」。日本では異例といえる結論は、なぜ出されてのでしょうか。世田谷用賀法律事務所、水谷江利弁護士の解説です。
福原愛さん「4歳長男連れ去り騒動」…東京家裁「子の引き渡し」審判にみる「共同親権」 (※画像はイメージです/PIXTA)

「子の引き渡し」命令が出るのは日本では異例なこと

元卓球女子メダリストである福原愛さんが、離婚後の昨年7月、長男(4歳)のみを日本に連れてきたまま台湾に戻さなかったという件がありました。ちょうど1年がたった7月20日、東京家庭裁判所にて、元夫の江さんに長男を台湾に戻すよう命じる「子の引き渡し」の保全命令が出ていたことがわかりました(一部「保全命令」ではなく「子の引き渡しの審判」であるとの報道もあるようです)。

 

今回の件、なぜこのような異例ともいえる結論が出たのでしょうか。

 

子どもの連れ去りに対して「戻せ」(=子の引き渡し)を命じる決定が出ることも、「保全」の命令が出ることも、日本の家庭裁判所では、「異例」といってもいいほどまれなことです。通常、これらの決定が出るのは、連れて出た親の側が、子どもにひどいことをしていて、返さないと子どもに大きな損害が出る、といったそれなりに極限的な場合であるからです。

 

現在の日本の家庭裁判所では、子どもを一方の親の同意なく連れて出て、そのまま返さないまま一定期間経過すれば、「その監護を尊重しよう」という傾向が、根強く見受けられます(「継続性の原則」による「子の連れ去り」の正当化の問題)。

 

福原さんに不倫報道があったことはよく知られたことであり、「不倫をしたのだから当然」という見方もあるかもしれません。しかしながら、「不倫」をしたことと「子どもの監護権」の問題は別です。不倫をしたからといって一律に子どもに対する権利を持てなくなるわけではないのです。おそらく、福原さんの「不倫」問題の件と、今回の決定の件とは、直接の関係は「ない」のだと思います。

台湾における「共同親権」の問題

まず第1に考えられるのは、今回の件が台湾→日本への『連れ去り(筆者はこの言葉には評価的な色彩が含まれていると思うので、ちょっと慎重に使いたいと思います)』であって、日本国内から日本国内の件ではなかったことです。

 

子の『連れ去り』を原則禁止にして子どもをもといた場所に戻さなければならない、という理念の「ハーグ条約」締結国間の『連れ去り』事案では、原則として子どもを元の国に戻すべき決定がなされます。

 

しかし、今回、台湾はハーグ条約の締結国ではなかったので、条約そのものの適用はありませんでした。それでも、国から国を超えた移動であった、という点は一定の要素であったろうと思います。

  

第2に考えられるのは、福原さんはすでに台湾で離婚が成立していたこと。報道内容から詳しいことはわかりませんが、お父さんである江さんのほうに通常子ども達がいて、福原さんには一定期間子ども達と会う「面会」が定められていたのだと思います。すでに離婚が成立していて、そして、その後の子どもの居場所にはおそらくすでにルールがあったのでしょう。そのルールに違反したのだ、というところが、問題視されたのではないでしょうか。離婚が成立していなくて、何も定まっていないところから子どもを連れて出てしまいました、という通常の事案とは違う、ということがあるのだと思います。

 

第3に考えられるのは、日本とは違って、台湾では離婚後も「共同親権」であったことです。日本民法に似ているはずの台湾民法が、すでに共同親権の定めであることは今更ながら驚きでしたが、「共同親権」なので、一方の親に軍配があがる仕組みではありません。