生活保護は、貧困によって最低限の生活すらできなくなった場合に、最後のセーフティネットとして機能するものです。しかし、誤解や偏見のために、本来受給すべき人が受給できていない実態があります。本記事では、これまで10,000件以上の生活保護申請サポートを行ってきた特定行政書士の三木ひとみ氏が、著書『わたし生活保護を受けられますか』(ペンコム)から、生活保護についての正確な知識を解説します。
生活保護のよくある誤解…「家族の資金援助が条件」「稼いだ分は全額減額」どちらもウソ!知っておくべき“本当の仕組み”【特定行政書士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

生活保護申請において起こりがちなトラブル

◆「家族の資金援助が申請受理の条件」は行政の水際作戦

実際に多い相談として、「これまで大体毎月〇万円の援助をしてきたのだから、これからもせめて〇万円の援助をするという約束を家族がするのなら、生活保護を受けられると言われた」といったものがあります。

 

行政書士が、当該役所に対し、法的な根拠などを確認をすると、「扶養義務者である親族には扶養義務を定める法令にのっとり、任意の協力を求める行政指導をしたにすぎず、強制ではない」「約束をしないと保護を申請できないとは言っていない」などとあいまいな回答をされることがほとんどです。

 

これはいわゆる「水際作戦」の1つで、行政指導というものが強制ではなく罰則などもないといったことを知らない一般の方に対し、生活保護申請への心理的ハードルを上げています。

 

これによって、申請さえすれば生活保護を受けられるのに受給に至っていない人の割合を増やしていると言えます。

 

◆3度の食事に困っていたら、まずはすぐに生活保護申請

3度の食事に困っていたら、まずはすぐに生活保護を申請すること、生活保護費をもらえるまでの間、3度の食事ができるように行政に助けてもらうことが大切です。

 

行政が支援しないと、明らかに3度の食事を取れないということを認識してもらえれば、生活保護、あるいはそれに代わりに本人の最低生活確保につながる術(もしあれば)を、行政も責任をもって案内せざるを得ないのです。

 

でも、自分で諦めてしまって借金を重ねたり、健全な人間関係が壊れそうな間柄の親族に経済援助を懇願したりしてしまうと、それによってますます苦しくなり、生活保護受給からも遠のいてしまうことがあります。

 

◆言った言わないでもめても、証拠がなければ泣き寝入り。大事な事は、口頭ではなく文書にしてもらう

福祉事務所の申請や調査の担当職員が、親切心から、「申請後に資産調査や訪問調査などを経て、保護決定が出て保護費を受け取るまでの間、親族が最低限のお金を貸してあげたり、食糧支援をしたりしても、本人の収入とみなしません(保護費を減額することもありません)」などと、こそっと助言するケースがあります。

 

生活保護申請に同行した行政書士の私が、調査期間中の食糧や金銭援助を生活保護申請者にしてもらえないか、と福祉事務所側から打診されたこともありました。

 

しかし、生活保護制度の運用上の原則に忠実にのっとって判断しなければ、公平性を欠くことになります。

 

借りたお金であっても収入認定の対象とならないケースがありますが、これはあくまでも保護の実施機関としての福祉事務所長の承認が必要とされています。

 

単に担当職員の口頭レベルでの了承では、この要件を満たしたことにはなりません。

 

実際、「ケースワーカーが収入とみなさないと言ったから、だから友人からお金を借りたのに、なぜ保護費が減額されてしまうのか」などのトラブルが起こることがあるのです。

 

本来の生活保護制度運用上のルールと異なる扱いをする場合は、基本的に文書による福祉事務所長の承認が必要とされることを自分の身を守るため覚えておきましょう。

 

言った言わないでもめても、証拠も何もなければ泣き寝入りです。