2020年の非正規雇用は10年前の2.5倍となりました。雇用問題から派生する中高年のひきこもりという深刻な問題は、もはや他人事ではありません。ここでは臨床心理士の桝田智彦氏が、地方で暮らす「ひきこもりの現状」について迫っていきます。 ※本連載は、書籍『中高年がひきこもる理由』(青春出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「非正規でさえみつからない」…中高年ひきこもりを襲う残酷な偏見 ※※画像はイメージです/PIXTA

『ひきこもり=悪』…地方から届いた声

女性よりも男性にひきこもりが多いのですが、その理由のひとつとして、無職の男性に向けられる社会の目の厳しさがあげられます。彼らには、不審者や無能力者を見るような、偏見的差別を含んだ視線が送られがちなのです。そして、この傾向は、地方圏ほど顕著だと考えられます。

 

地方圏にはいまだ閉鎖的なムラ社会の名残や同質性を好む傾向があるところが多いので、異質な者へのまなざしは都会以上に厳しくなります。

 

人口が多い東京であれば、他人の行動にそこまで注意を注げません。そもそも無職の人が、新宿の街を昼間からぶらついていても誰も気にかけないし、奇異な目で見ることもないでしょう。

 

ところが、地方圏では昼間から仕事もしないで外をぶらぶらしていれば、それだけで目立ってしまい、非難するような目で見られて、噂にもなるでしょう。それを思うと、外へ出づらくなるのが自然ですし、いったんひきこもってしまうと、冷たい視線を浴びることへの不安がさらに高まり、いっそう外へ出づらくなるのでしょう。

 

実際に、「都市部よりも過疎部で強まる誤解や偏見」として東北の家族会(ひきこもりの方々の家族でつくられる団体)から次のような声が届いています。家族会のつくる情報誌『KHJジャーナルたびだち91号─ Starting Over自由な心で生きる─』から、ご紹介しましょう。

 

「『ひきこもり=悪』だという当地の県民性もある。家族や当事者に対して特別視し、気遣いをしすぎる一方で、『恥さらし』と言う人もいる。世間の目から責められるように、家族は『解決ありき』になりすぎて、当事者を追いつめ、家族と当事者のひずみは、ますます混迷してくる」

 

この声からもやはり、都市部よりも地方のほうにひきこもりが固定化されやすい環境要因があると、考えられます。

 

さらに、地方圏にひきこもりが多い理由としては、雇用が都市部よりも少ないことがあげられます。就職先を探しても、探してもみつからないまま、最後には職探しに疲れはてて、ひきこもってしまう方も多いのです。

 

都会でも雇用が厳しいことはたしかですが、それでも非正規やアルバイトならまだみつかる可能性があります。低賃金で、いつ解雇されるかわからないけれど、それでも、あるだけいいと言えないわけでもありません。ところが、地方とりわけ町村部へ行くと、非正規やアルバイトでさえみつけるのは困難だと考えられます。

 

雇用という経済的、政治的な問題が人々の暮らしに暗い影を落とし、そして、そのことがひとつの原因となってひきこもっている人がいるとしたら、雇用状況が厳しい地方圏にひきこもりが多いのは当然の帰結と言えるでしょう。

 

 

桝田 智彦

臨床心理士