今回は、特定の株主についてのみ特定の権利を付加する属人的株式(VIP株)について見ていきます。※本連載は、司法書士・河合保弘氏の著書、『種類株式&民事信託を活用した戦略的事業承継の実践と手法』(日本法令)の中から一部を抜粋し、種類株式や民事信託などを活用した具体的な事業承継対策について、様々な実例を用いて解説していきます。

VIP株と種類株式との違いとは?

属人的株式は定款に定めることによって、特定の株主についてのみ特定の権利を付加するというもので、例えば「代表取締役である株主には議決権を10倍与える」とか、「会社の従業員である株主には配当を3倍与える」といった規定となるので、これを「VIP株」と略称することにします。

 

このようなVIP株と種類株式との相違点ですが、これは簡単に言うと、普通株式が無色透明な存在と考えれば、種類株式は「株式」に9種類の色を付けることであり、普通株式に色を塗ることで種類株式となるのに対し、VIP株は特定の株主に色が付いていて、そこに透明の普通株式が渡ると株主の色に染まって性質が変わり、VIP以外の株主の手に渡ると元の透明に戻るというイメージとなります。

 

 

また種類株式とVIP株との相違点として、種類株式は登記が必須なのに対し、VIP株は定款で定めるのみで登記を要しないということ、種類株式の発行には通常の新株発行と同じ決議要件(一般的には特別決議と呼ばれる議決権総数の3分の2以上の賛成)で済むところ、VIP株の場合には、定款変更に際して特殊決議と呼ばれる総株主の頭数の半数以上かつ議決権総数の4分の3という大変厳しい決議内容が要件となるという点があります。

与える権利の内容に特別な規制は存在しない

それでは、VIP株の内容は、どのように決めればよいのでしょうか。実は会社法に「株主ごとに異なる取り扱い」についての特別な規制は存在しないのです。

 

そうなると、例えば「VIPの議決権は他の株主の1万倍」であるとか、「VIPは他の株主の100倍の配当を受けることができる」といった非常に極端な規定も可能なのではないかという考え方も出てくるでしょう。

 

またVIPの定め方についても、「代表取締役である株主」といった一般的な内容以外に、例えば「田中一郎氏」といった特定個人を指定することや、「田中一郎氏の直系血族である株主」といった家督相続的な定め方も有り得ると思われます。

 

確かに規制がないのですから、何を決めても差し支えないとの考え方もできますが、ここは良識の範囲内に止めるべきということと、法律上では「特殊決議」で済むところ、やはり一部株主の反対を押し切ってまで強行すべきでないという立場から、VIP株設定に関する定款変更の際には全員一致の決議を基本とすべきと、著者は考えています。

 

 

また、VIP株は登記されないという特性から、その定款規定の存在が公にされることがなく、単なる私文書に過ぎない株主総会議事録しか証明方法がありませんので、例えば議事録に対して公証人による宣誓認証(私文書が確かに自分たちの意思によって作成されたということを株主が公証人の前で宣誓し、公証人が確認して署名する手続き)を受けておくなどの対策を講じておくべきでしょう。

 

合法的かつ株主全員の合意による定款変更に基づいて設定されたVIP株は、自由自在な内容を作り込むことができるため、本当に様々な局面で活用できるのですが、次回は事業承継に関して後継者と先代経営者との調和や調整のために利用した事例を紹介します。

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    本連載は特定の株主についてのみ特定の権利を付加する、2015年3月30日刊行の書籍『種類株式&民事信託を活用した戦略的事業承継の実践と手法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    種類株式&民事信託を活用した 戦略的事業承継の実践と手法

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    河合 保弘

    日本法令

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