今回は、取引関係にある会社が共通の利益を確保するために役立つ、種類株式の選択例を紹介します。※本連載は、司法書士・河合保弘氏の著書、『種類株式&民事信託を活用した戦略的事業承継の実践と手法』(日本法令)の中から一部を抜粋し、種類株式や民事信託などを活用した具体的な事業承継対策について、様々な実例を用いて解説していきます。

「拒否権付」「役員選解任権付」の種類株式とは?

前回の続きです。山村の意向に沿って、Y社からの出資200株については、「拒否権付」かつ「役員選解任権付」の種類株式とすることとなりました。

 

これにより、取締役となる山村またはY社からの推薦役員は、Y社が保有する種類株式のみで構成される「種類株主総会」で選任及び解任されることとなり、K社の意向に関係なく、その地位を保持することができることとなります。

 

また、その他の大半の議案については総議決権の3分の2を保有する亀山が自由に決議することができますが、特に重要な決議については、Y社が「拒否権」を発動して、これをストップすることができるようになっています。

 

なお、これらの種類株式は株数に関係なく効果を発揮できますので、200株すべてを種類株式とする必然性はなく、例えば1株のみを種類株式として、残り199株については普通株式とする設計も有り得ますが、一般的な中小企業においては既に「株式の譲渡制限の規定」が定められているため、いずれにしてもY社が種類株式を他に譲渡するという可能性は極めて少ないと考えられますので、今回はY社に対して発行する全株式を種類株式としています。

 

 

ただし、種類株式は登記され、誰でもが取得できる登記事項証明書に記載される関係上、拒否権付株式の内容については慎重に検討し、外部からの誤解を避けるよう考慮しました。

 

[図表1]拒否権付株式及び役員選解任権付株式の活用

 

[図表2]K社の変更後定款

矛盾がなければ種類株式はいくつ組み合わせてもよい

種類株式には9種類の類型がありますが、その内容が矛盾しない限り、それをいくつ組み合わせても差し支えないとされているのが特徴です。

 

そこで本事例でも、将来においてY社が種類株式を手放して現金化したい意向がある場合には「取得請求権付」、逆にK社が種類株式の回収を図りたいという意向があれば「取得条項付」種類株式とすることも可能ですし、議決権や配当の調整が必要な場合には「議決権制限」「配当優先(劣後)」種類株式とすることも可能です。

 

 

特に拒否権付株式は、その効力が絶大であるだけに、あまり長期間にわたって存続することは好ましくないと考えられますので、将来的には種類株式自体の定款規定を解消して普通株式に戻す手続きを行うか、K社自身が種類株式を取得して金庫株として議決権を封印したり、あるいは株式消却の手続きでもって株式自体をなくしてしまうことを予定しておく必要があると思われます。

 

なお、現時点における税務の取扱いとしては、拒否権付種類株式及び役員選解任権付種類株式について、普通株式と異なる相続税評価がなされるとはなっていませんし、特に財産権的な相違点がないと考えられるため、生前売買や贈与に際する株式評価についても、普通株式と同じと考えて差し支えないものと思われます。

 

いずれにしても、K社とY社の取引関係、あるいは経営者である亀山と山村の人間関係に基づいてこその種類株式なのですから、双方の共通利益であるK社の発展を目指して協力することが最も望まれることであると思います。

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    本連載は、2015年3月30日刊行の書籍『種類株式&民事信託を活用した戦略的事業承継の実践と手法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    種類株式&民事信託を活用した 戦略的事業承継の実践と手法

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    河合 保弘

    日本法令

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